第1章
1:1私たちの間で成就した出来事について、物語をまとめようと、多くの人が手を着けてきました。
1:2初めから目撃者であり、御言葉に仕える者となった人々が、私たちに伝えてくれたとおりに、まとめようとしたのです。
1:3そこで、すべてを初めから注意深くたどってきた私も、尊敬するテオフィロさま、あなたに順序立てて書き送るのがよいと考えました。
1:4あなたが教えを受けた事柄の確かさを、よく知っていただくためです。1
1:5ユダヤの王ヘロデの時代に、アビヤの組に属するザカリアという祭司がいた。妻もアロンの家系の出で、エリサベトといった。
1:6二人とも神の前に正しい人で、主の命令と定めをすべて守り、非の打ちどころなく歩んでいた。
1:7しかし子どもはなかった。エリサベトが子を産めず、二人ともすでに年を重ねていたからである。
1:8ザカリアが、自分の組の当番に従って、神の前で祭司の務めを果たしていたときのことだった。
1:9祭司の慣例に従うくじ引きで、主の聖所に入り、香をたく役に当たった。
1:10香をたく時刻、集まった民は皆、外で祈っていた。
1:11すると主の御使いが現れ、香の祭壇の右側に立った。
1:12ザカリアはそれを見て動揺し、恐れに襲われた。
1:13御使いは言った。「恐れることはない、ザカリア。あなたの願いは聞き届けられた。妻エリサベトは、あなたに男の子を産む。その名をヨハネとしなさい。
1:14あなたには喜びと歓喜があり、多くの人もその子の誕生を喜ぶ。
1:15その子は主の前に偉大な者となるからだ。ぶどう酒も強い酒も決して飲まず、母の胎にいるときから聖霊に満たされる。
1:16そしてイスラエルの子らの多くを、彼らの神である主へと立ち返らせる。
1:17その子はエリヤの霊と力をもって主に先立ち、父たちの心を子どもたちへ向けさせ、従わない者たちを正しい人々の分別へと立ち返らせる。こうして、主のために備えられた民を整えるのだ。」
1:18ザカリアは御使いに言った。「それを何によって確かめられるでしょうか。私は老人ですし、妻も年を重ねています。」
1:19御使いは答えた。「私はガブリエル。神の前に立つ者だ。あなたに語り、この良い知らせを伝えるために遣わされた。
1:20だが見よ、これらのことが起こる日まで、あなたは口を閉ざされ、話せなくなる。時が来れば実現する私の言葉を、信じなかったからだ。」
1:21民はザカリアを待っていたが、聖所で時間がかかっているのを不思議に思っていた。
1:22出てきた彼が話せないので、人々は、聖所で幻を見たのだと悟った。彼は身ぶりをしていたが、口はきけないままだった。
1:23務めの日々が終わると、ザカリアは自分の家へ帰った。
1:24その後、妻エリサベトは身ごもり、五か月の間、人目を避けて暮らした。彼女はこう言った。
1:25「主は私にこうしてくださった。人々の間での私の恥を取り去ろうと、今、目を留めてくださったのだ。」
1:26六か月目に、御使いガブリエルが神から遣わされ、ガリラヤのナザレという町に来た。
1:27ダビデの家系に属するヨセフという人と婚約している、一人の処女のもとへ来たのである。その名はマリアといった。
1:28御使いは彼女のところに入り、言った。「喜びなさい、恵みを受けた人。主があなたと共におられる。」
1:29マリアはこの言葉にひどく戸惑い、いったいどういう挨拶なのだろうかと考え続けた。
1:30御使いは言った。「恐れることはない、マリア。あなたは神の恵みを受けたのだ。
1:31見よ、あなたは身ごもり、男の子を産む。その名をイエスとしなさい。
1:32その子は偉大な者となり、いと高き方の子と呼ばれる。主なる神は、その父ダビデの王座を彼にお与えになる。
1:33彼はヤコブの家を永遠に治め、その王国に終わりはない。」
1:34マリアは御使いに言った。「どうしてそのようなことが起こるのでしょう。私は男の人と関係を持っていません。」
1:35御使いは答えた。「聖霊があなたに臨み、いと高き方の力があなたを覆う。それゆえ、生まれる子は聖なる者、神の子と呼ばれる。2
1:36見よ、あなたの親族エリサベトも、年を取ってから男の子を身ごもった。子を産めないと言われていた彼女が、もう六か月になっている。
1:37神からの言葉で、実現できないものは一つもないのだから。」
1:38マリアは言った。「私は主の奴隷です。お言葉のとおり、この身になりますように。」そして御使いは彼女のもとを去った。
1:39そのころ、マリアは立って、急いで山地へ、ユダの町へと出かけた。
1:40ザカリアの家に入り、エリサベトに挨拶した。
1:41エリサベトがマリアの挨拶を聞くと、胎の子が躍った。エリサベトは聖霊に満たされ、
1:42大声を上げて言った。「あなたは女たちの中で祝福された人。あなたの胎の実も祝福されています。
1:43私の主のお母さまが来てくださるとは、どうして私にこのようなことがあるのでしょう。
1:44あなたの挨拶の声が耳に入ったとたん、胎の子が喜びに躍りました。
1:45主から告げられたことは実現すると信じた方は、幸いです。」
1:46マリアは言った。「私の魂は主をあがめ、
1:47私の霊は、救い主である神を喜びたたえます。
1:48ご自分の奴隷の低い境遇に、目を留めてくださったからです。見よ、今から後、どの時代の人々も、私を幸いな者と呼ぶでしょう。
1:49力ある方が、私に大いなることをしてくださいました。その御名は聖なるもの。
1:50その憐れみは、代々にわたり、この方を畏れる人々に及びます。
1:51この方は御腕で力を振るい、心の思いにおいて高ぶる者たちを散らされました。
1:52権力を握る者たちを王座から引き下ろし、低いところにいる人々を高められました。
1:53飢えた人々を良いもので満たし、富む者たちを何も持たせず追い返されました。
1:54ご自分の僕イスラエルを助けてくださいました。憐れみをお忘れにならないために。
1:55私たちの父祖にお語りになったとおり、アブラハムとその子孫への憐れみを、いつまでも。」
1:56マリアはエリサベトと三か月ほど過ごしてから、自分の家へ帰った。
1:57エリサベトには出産の時が満ち、男の子を産んだ。
1:58近所の人や親族は、主が彼女に大きな憐れみを示されたと聞き、共に喜んだ。
1:59八日目に、人々は子に割礼を施すために来た。そして父の名を取って、ザカリアと呼ぼうとした。
1:60しかし母は言った。「いいえ、ヨハネという名にします。」
1:61人々は言った。「あなたの親族には、その名の人は一人もいません。」
1:62そこで父に身ぶりで、子を何という名にしたいのかと尋ねた。
1:63ザカリアは書き板を求め、「この子の名はヨハネ」と書いた。人々は皆、驚いた。
1:64するとたちまち彼の口が開き、舌も動きだして、神をほめたたえながら話した。
1:65近所の人々は皆、恐れを抱いた。これらの出来事は、ユダヤの山地一帯で語り伝えられた。
1:66聞いた人々は皆、心に留めて言った。「この子はいったい、どのような者になるのだろう。」実際、主の御手がこの子と共にあった。
1:67父ザカリアは聖霊に満たされ、預言して言った。
1:68「イスラエルの神である主が、ほめたたえられますように。ご自分の民を訪れ、解放をもたらしてくださった。
1:69ご自分の僕ダビデの家に、私たちのため、救いの角を立ててくださった。3
1:70昔から、聖なる預言者たちの口を通して語られたとおりに。
1:71それは、敵からの救い、私たちを憎むすべての者の手からの救い。
1:72父祖たちに憐れみを示し、ご自分の聖なる契約を思い起こされるため。
1:73その契約は、私たちの父アブラハムに立てられた誓い、すなわち私たちが、
1:74敵の手から救い出されて、恐れることなく、
1:75生涯のすべての日々、この方の前で、聖と義をもってこの方に仕えることができるようにしてくださるという誓い。
1:76幼子よ、あなたも、いと高き方の預言者と呼ばれる。主に先立ち、その道を整え、
1:77罪の赦しによる救いを、その民に知らせるのだから。
1:78それは、私たちの神の、心の底からの憐れみによる。この憐れみによって、高いところから昇る光が私たちを訪れる。4
1:79暗闇と死の陰に座す人々を照らし、私たちの足を平和の道へ導くために。」
1:80子は成長し、霊において強くなった。そしてイスラエルの前に現れる日まで、荒れ野にいた。
第2章
2:1そのころ、皇帝アウグストゥスから、全世界の住民を登録するようにとの命令が出た。
2:2これは、キリニウスがシリアを統治していたときに行われた、最初の住民登録であった。5
2:3人々は皆、登録のため、それぞれ自分の町へ向かった。
2:4ヨセフもガリラヤの町ナザレから、ユダヤのベツレヘムと呼ばれるダビデの町へ上った。ダビデの家系、その一族の出だったからである。
2:5婚約者のマリアと共に登録するためであった。マリアは身ごもっていた。
2:6二人がそこにいる間に、出産の時が満ちた。
2:7マリアは初めての子である男の子を産み、布にくるんで飼い葉桶に寝かせた。泊まる場所に、二人のための空きがなかったからである。6
2:8同じ地方に、野宿をしながら夜通し羊の群れを見張る羊飼いたちがいた。
2:9主の御使いがそばに立ち、主の栄光が周囲を照らした。彼らはひどく恐れた。
2:10御使いは言った。「恐れることはない。見よ、民全体のものとなる大きな喜びを、あなたがたに知らせる。
2:11今日、ダビデの町で、あなたがたのために救い主がお生まれになった。この方こそ、キリストである主だ。
2:12あなたがたへのしるしはこれだ。布にくるまれ、飼い葉桶に寝かされている乳飲み子が見つかる。」
2:13突然、その御使いに加わって、天の大軍が現れ、神をほめたたえて言った。
2:14「いと高きところでは、神に栄光。地の上では、御心にかなう人々に平和。」7
2:15御使いたちが天に去ると、羊飼いたちは話し合った。「さあ、ベツレヘムまで行って、主が知らせてくださったこの出来事を見よう。」
2:16彼らは急いで行き、マリアとヨセフ、それに飼い葉桶に寝かされた乳飲み子を見つけた。
2:17それを見ると、この子について自分たちに告げられたことを知らせた。
2:18聞いた人々は皆、羊飼いたちの話に驚いた。
2:19マリアは、これらのことをすべて心に納め、思い合わせていた。
2:20羊飼いたちは、聞いたこと、見たことのすべてについて神をあがめ、ほめたたえながら帰っていった。すべては、彼らに告げられていたとおりであった。
2:21八日がたち、子に割礼を施すとき、その名はイエスとされた。胎に宿る前に、御使いが付けた名である。
2:22モーセの律法による彼らの清めの期間が満ちると、両親は子を主に献げるため、エルサレムへ連れて上った。8
2:23主の律法に、「母の胎を最初に開く男子は皆、主に属する聖なる者と呼ばれる」と書かれているとおりである。
2:24また主の律法に定められたとおり、山鳩一つがい、または家鳩のひな二羽を、いけにえとして献げるためであった。
2:25エルサレムにシメオンという人がいた。正しく、信仰深い人で、イスラエルが慰めを受けるのを待ち望んでいた。聖霊がこの人の上にあった。
2:26主のキリストを見るまでは死なないと、聖霊から告げられていた。
2:27シメオンは霊に導かれて神殿に入った。ちょうど両親が、律法の慣例を行うため、幼子イエスを連れて入ってきた。
2:28そこで幼子を腕に抱き取り、神をほめたたえて言った。
2:29「主権者よ、今こそあなたは、お言葉のとおり、この奴隷を安らかに去らせてくださいます。
2:30この目が、あなたの救いを見たからです。
2:31それは、あらゆる民の前にあなたが備えられたもの。
2:32諸民族を照らす啓示の光、あなたの民イスラエルの栄光です。」
2:33父と母は、この子について語られることに驚いていた。
2:34シメオンは二人を祝福し、母マリアに言った。「見よ、この子は、イスラエルの多くの人を倒れさせ、また立ち上がらせるために、そして反対を受けるしるしとして定められています。
2:35あなた自身の魂も、剣に貫かれます。こうして、多くの人の心の思いがあらわになるのです。」
2:36また、アシェル族のファヌエルの娘、アンナという女預言者がいた。非常な高齢で、結婚して七年間、夫と暮らした後、
2:37やもめとして八十四歳になっていた。神殿を離れず、断食と願いをもって、夜も昼も神に仕えていた。9
2:38ちょうどそのとき近くに来て、神に感謝をささげ、エルサレムの解放を待ち望むすべての人に、この子について語った。
2:39両親は主の律法に従ってすべてを済ませると、ガリラヤの自分たちの町、ナザレへ帰った。
2:40子は成長し、強くなり、知恵に満たされていった。神の恵みがその上にあった。
2:41両親は毎年、過越祭にエルサレムへ行っていた。
2:42イエスが十二歳のときも、祭りの慣例に従って上った。
2:43祭りの日々が終わり、両親が帰るとき、少年イエスはエルサレムに残っていた。両親はそれに気づかなかった。
2:44道連れの一行にいると思って一日分の道を進み、それから親族や知人の間を捜し回った。
2:45見つからなかったので、捜しながらエルサレムへ戻った。
2:46三日後、神殿でイエスを見つけた。教師たちの真ん中に座り、話を聞いたり、質問したりしていた。
2:47聞いていた人々は皆、その理解力と答えに驚嘆していた。
2:48両親もその姿を見て驚いた。母は言った。「どうして私たちにこんなことをしたの。お父さんも私も、苦しい思いで捜していたのですよ。」
2:49イエスは言った。「なぜ私を捜していたのですか。私が自分の父のところにいるべきことを、ご存じなかったのですか。」10
2:50しかし両親には、この言葉の意味が分からなかった。
2:51イエスは両親と共に下ってナザレに帰り、二人に従って暮らした。母はこれらのことをすべて、心に保っていた。
2:52イエスは知恵においても、年齢においても成長し、神からも人々からも、ますます好意を受けるようになった。
第3章
3:1皇帝ティベリウスの治世第十五年、ポンティオ・ピラトがユダヤの総督、ヘロデがガリラヤの領主、その兄弟フィリポがイトラヤとトラコニティス地方の領主、リサニアがアビレネの領主であり、
3:2アンナスとカイアファが大祭司であったころ、荒れ野にいたザカリアの子ヨハネに、神の言葉が臨んだ。
3:3ヨハネはヨルダン川の周辺一帯を巡り、罪の赦しに至る悔い改めの洗礼を告げ知らせた。
3:4預言者イザヤの言葉の書に記されているとおりである。「荒れ野で叫ぶ者の声。主の道を整えよ。その通り道をまっすぐにせよ。
3:5谷はすべて埋められ、山と丘はすべて低くされる。曲がった道はまっすぐに、険しい道は平らになる。
3:6そして、すべての人が神の救いを見る。」
3:7ヨハネは、洗礼を受けようと出てきた群衆に言った。「毒蛇の子らよ。迫り来る怒りから逃れるようにと、誰が教えたのか。
3:8それなら、悔い改めにふさわしい実を結べ。『私たちの父はアブラハムだ』などと、心の中で言い始めるな。言っておくが、神はこんな石からでも、アブラハムのために子を起こせるのだ。
3:9斧はもう木の根元に置かれている。良い実を結ばない木はすべて切り倒され、火に投げ込まれる。」
3:10群衆は尋ねた。「では、私たちは何をすればよいのですか。」
3:11ヨハネは答えた。「肌着を二枚持つ人は、持たない人に分けなさい。食べ物を持つ人も、同じようにしなさい。」
3:12徴税人たちも洗礼を受けに来て言った。「先生、私たちは何をすればよいのですか。」
3:13ヨハネは言った。「定められた額を超えて取り立ててはならない。」
3:14兵士たちも尋ねた。「では、私たちは何をすればよいのですか。」彼は言った。「誰からも脅して金を取るな。偽りの訴えでゆするな。自分たちの給料で満足しなさい。」
3:15民は期待を抱き、皆、心の中で、ヨハネこそキリストではないかと考えていた。
3:16ヨハネは皆に答えた。「私はあなたがたに水で洗礼を授ける。しかし、私よりも力ある方が来られる。私には、その方の履物のひもをほどく資格もない。その方はあなたがたに、聖霊と火で洗礼を授ける。
3:17その手には穀物をあおぎ分ける箕がある。ご自分の脱穀場をすっかり清め、麦を倉に集め、もみ殻を消えない火で焼き尽くされる。」
3:18ヨハネはほかにも多くのことを勧めながら、民に良い知らせを伝えた。
3:19ところが領主ヘロデは、兄弟の妻ヘロディアのことや、自分の行ったすべての悪事をヨハネに非難され、
3:20そのすべてに、ヨハネを牢に閉じ込めるという悪事まで付け加えた。
3:21民が皆、洗礼を受け、イエスも洗礼を受けて祈っておられたとき、天が開いた。
3:22聖霊が鳩のような目に見える姿でイエスの上に降り、天から声がした。「あなたは私の愛する子。私はあなたを喜びとする。」
3:23イエスが活動を始められたのは、およそ三十歳のときだった。人々にはヨセフの子と思われていた。ヨセフはヘリの子、11
3:24ヘリはマタトの子、マタトはレビの子、レビはメルキの子、メルキはヤンナイの子、ヤンナイはヨセフの子、
3:25ヨセフはマタティアの子、マタティアはアモスの子、アモスはナウムの子、ナウムはエスリの子、エスリはナンガイの子、
3:26ナンガイはマアトの子、マアトはマタティアの子、マタティアはセメインの子、セメインはヨセクの子、ヨセクはヨダの子、
3:27ヨダはヨアナンの子、ヨアナンはレサの子、レサはゾロバベルの子、ゾロバベルはサラティエルの子、サラティエルはネリの子、
3:28ネリはメルキの子、メルキはアディの子、アディはコサムの子、コサムはエルマダムの子、エルマダムはエルの子、
3:29エルはイエスの子、イエスはエリエゼルの子、エリエゼルはヨリムの子、ヨリムはマタトの子、マタトはレビの子、
3:30レビはシメオンの子、シメオンはユダの子、ユダはヨセフの子、ヨセフはヨナムの子、ヨナムはエリアキムの子、
3:31エリアキムはメレアの子、メレアはメンナの子、メンナはマタタの子、マタタはナタンの子、ナタンはダビデの子、
3:32ダビデはエッサイの子、エッサイはヨベルの子、ヨベルはボオスの子、ボオスはサラの子、サラはナアソンの子、
3:33ナアソンはアミナダブの子、アミナダブはアドミンの子、アドミンはアルニの子、アルニはヘスロンの子、ヘスロンはファレスの子、ファレスはユダの子、
3:34ユダはヤコブの子、ヤコブはイサクの子、イサクはアブラハムの子、アブラハムはテラの子、テラはナホルの子、
3:35ナホルはセルクの子、セルクはラガウの子、ラガウはファレクの子、ファレクはエベルの子、エベルはサラの子、
3:36サラはカイナムの子、カイナムはアルファクサドの子、アルファクサドはセムの子、セムはノアの子、ノアはラメクの子、
3:37ラメクはマトサラの子、マトサラはエノクの子、エノクはヤレトの子、ヤレトはマレレエルの子、マレレエルはカイナムの子、
3:38カイナムはエノスの子、エノスはセトの子、セトはアダムの子、アダムは神の子である。
第4章
4:1イエスは聖霊に満たされてヨルダン川から戻り、霊に導かれて荒れ野を進み、
4:2四十日間、悪魔の試みを受けられた。その間は何も食べず、日々が終わると空腹になられた。
4:3悪魔は言った。「神の子なら、この石に、パンになるよう命じてみろ。」
4:4イエスは答えられた。「『人はパンだけで生きるのではない』と書いてある。」
4:5悪魔はイエスを連れて上り、一瞬のうちに世界のすべての王国を見せた。
4:6そして言った。「これらすべてを治める権限と、その栄華をお前にやろう。それは私に任されていて、私が望む者には誰にでも、それを与えるのだ。
4:7私の前にひれ伏すなら、すべてお前のものになる。」
4:8イエスは答えられた。「『あなたの神である主を拝み、その方だけに仕えよ』と書いてある。」
4:9悪魔はイエスをエルサレムへ連れていき、神殿の高い突端に立たせて言った。「神の子なら、ここから下へ身を投げてみろ。
4:10『神はあなたのために御使いたちに命じ、あなたを守らせる』と書いてある。
4:11また、『御使いたちは手であなたを支え、足が石にぶつからないようにする』とも。」
4:12イエスは答えられた。「『あなたの神である主を試してはならない』と言われている。」
4:13悪魔はあらゆる試みを終え、次の機会が来るまでイエスから離れた。
4:14イエスは霊の力に満ちてガリラヤへ戻られ、その評判は周辺一帯に広がった。
4:15人々の会堂で教え、皆からあがめられた。
4:16それから、お育ちになったナザラに来られた。いつものように安息日に会堂に入り、朗読のために立たれた。
4:17預言者イザヤの巻物が渡された。巻物を開き、こう書かれた箇所を見つけられた。
4:18「主の霊が私の上にある。貧しい人々に良い知らせを伝えるため、主が私に油を注がれたからだ。捕らわれた者に解放を、目の見えない人に視力の回復を告げ、打ちひしがれた者を解放して送り出し、
4:19主が恵みを示される年を告げ知らせるために、私を遣わされた。」
4:20イエスは巻物を巻いて係の者に返し、腰を下ろされた。会堂の人々の目は皆、イエスに注がれていた。
4:21イエスは話し始められた。「今日、あなたがたが耳にしたこの聖書の言葉は実現しました。」
4:22人々は皆、イエスを認め、その口から出る恵みに満ちた言葉に驚いた。そして言った。「この人はヨセフの息子ではないか。」
4:23イエスは言われた。「きっとあなたがたは、『医者よ、自分を治せ』ということわざを持ち出すでしょう。『カファルナウムで行ったと聞くことを、この故郷でもやってみろ』と言うでしょう。
4:24確かに言っておきます。自分の故郷で受け入れられる預言者はいません。
4:25本当のことを言います。エリヤの時代、三年六か月の間、天が閉ざされ、全土に大飢饉が起こったとき、イスラエルには多くのやもめがいました。
4:26しかしエリヤは、その誰のもとへも遣わされず、シドン地方のサレプタにいる、一人のやもめのもとへ遣わされました。
4:27また預言者エリシャの時代、イスラエルには重い皮膚病の人が多くいましたが、清められたのは、その誰でもなく、シリア人ナアマンでした。」
4:28会堂の人々はこれを聞くと、皆、怒りに満たされた。
4:29立ち上がってイエスを町の外へ追い出し、町が建っている山の崖まで連れていった。突き落とそうとしたのである。
4:30しかしイエスは、人々の間を通り抜け、去っていかれた。
4:31イエスはガリラヤの町カファルナウムへ下り、安息日に人々を教えておられた。
4:32人々はその教えに驚いた。言葉に権威があったからである。
4:33会堂に、汚れた悪霊の霊に取りつかれた人がいた。その人は大声で叫んだ。
4:34「ああ、ナザレのイエス、我々に何の用だ。我々を滅ぼしに来たのか。お前が誰か知っている。神の聖なる者だ。」
4:35イエスはそれを叱りつけて言われた。「黙れ。この人から出ていけ。」悪霊はその人を皆の真ん中に投げ倒して出ていったが、何の害も加えなかった。
4:36人々は皆、驚きに包まれ、互いに語り合った。「これは何という言葉だろう。権威と力をもって汚れた霊に命じると、出ていくのだ。」
4:37イエスについての評判は、周辺のあらゆるところに伝わっていった。
4:38イエスは会堂を出て、シモンの家に入られた。シモンのしゅうとめが高熱に苦しんでいたので、人々は彼女のことをお願いした。
4:39イエスが枕元に立って熱を叱りつけると、熱は去った。彼女はすぐに起き上がり、一同をもてなした。
4:40日が沈むころ、さまざまな病気の人を抱える者たちは皆、その人々をイエスのもとへ連れてきた。イエスは一人一人に手を置いて、治された。
4:41また多くの人から悪霊が出ていき、「あなたは神の子だ」と叫んだ。イエスは悪霊たちを叱り、話すことを許されなかった。彼らが、イエスはキリストであると知っていたからである。
4:42夜が明けると、イエスは出て、人里離れた場所へ行かれた。群衆は捜し回ってそのもとへ来て、自分たちから去られないよう引き留めていた。
4:43しかしイエスは言われた。「ほかの町にも、神の国の良い知らせを伝えなければなりません。そのために私は遣わされたのです。」
第5章
5:1イエスがゲネサレト湖のほとりに立っておられると、神の言葉を聞こうとして、群衆が押し寄せてきた。
5:2湖岸に二艘の舟があるのをご覧になった。漁師たちは舟から降り、網を洗っていた。
5:3イエスは、その一つ、シモンの舟に乗り、岸から少し離すように頼まれた。そして腰を下ろし、舟から群衆を教えておられた。
5:4話し終えると、シモンに言われた。「深いところへ漕ぎ出し、網を下ろして漁をしなさい。」
5:5シモンは答えた。「先生、一晩中働いても、何も取れませんでした。でも、お言葉ですから、網を下ろしてみます。」13
5:6そのとおりにすると、たいへんな数の魚が入り、網が破れ始めた。
5:7そこで別の舟の仲間に合図して、助けに来てもらった。仲間が来て二艘ともいっぱいにすると、舟は沈みかけた。
5:8シモン・ペトロはこれを見て、イエスの足もとにひれ伏して言った。「主よ、私から離れてください。私は罪深い人間です。」
5:9取れた魚の多さに、彼も、一緒にいた者たちも皆、驚きに包まれていたからである。
5:10シモンの仲間、ゼベダイの子ヤコブとヨハネも同じだった。イエスはシモンに言われた。「恐れることはない。これからあなたは、人を生かして捕らえるようになる。」14
5:11彼らは舟を岸に着けると、すべてを捨ててイエスに従った。
5:12イエスがある町におられたとき、全身を重い皮膚病に侵された人がいた。イエスを見ると、顔を地に伏せて願った。「主よ、お望みなら、私を清めることがおできになります。」
5:13イエスは手を伸ばしてその人に触れ、言われた。「そう願う。清くなりなさい。」するとすぐに皮膚病は去った。
5:14イエスは誰にも話さないようにと命じ、「ただ、行って祭司に体を見せなさい。そして、モーセが定めたとおり、清めのための献げ物をしなさい。人々への証しとするためだ」と言われた。
5:15しかしイエスについての話はますます広まり、大勢の群衆が、話を聞き、病気を治してもらおうと集まってきた。
5:16だがイエスは、人里離れた場所へ退き、祈っておられた。
5:17ある日、イエスが教えておられると、ガリラヤとユダヤのあらゆる村やエルサレムから来た、ファリサイ派の人々と律法の教師たちが座っていた。そこには、イエスが癒やしを行うための主の力があった。
5:18そこへ人々が、体の麻痺した人を寝台に載せて運んできた。中へ運び入れ、イエスの前に置こうとした。
5:19しかし群衆のために運び入れる道が見つからず、屋上に上った。そして屋根瓦の間から、その人を小さな寝台ごと、人々の真ん中、イエスの前に下ろした。
5:20イエスは彼らの信仰をご覧になり、言われた。「人よ、あなたの罪は赦されている。」
5:21律法学者とファリサイ派の人々は考え始めた。「神を冒瀆することを言うこの人は、いったい何者だ。神おひとりのほかに、誰が罪を赦せるのか。」
5:22イエスは彼らの考えを知り、答えられた。「なぜ心の中でそのように考えるのか。
5:23『あなたの罪は赦されている』と言うのと、『起きて歩きなさい』と言うのと、どちらが易しいか。
5:24だが、人の子が地上で罪を赦す権威を持つことを、あなたがたに知らせよう。」そして麻痺した人に言われた。「あなたに言う。起き上がり、寝台を持って家に帰りなさい。」
5:25その人はたちまち皆の前で起き上がり、寝ていたものを持ち上げ、神をあがめながら家に帰った。
5:26人々は皆、驚嘆にとらわれ、神をあがめた。恐れに満たされ、「今日は驚くべきことを見た」と言った。
5:27その後、イエスは外へ出て、徴税所に座っているレビという徴税人に目を留め、言われた。「私に従いなさい。」
5:28レビはすべてを置いて立ち上がり、イエスに従った。
5:29レビは自分の家で、イエスのために盛大な宴を開いた。大勢の徴税人やほかの人たちも、一緒に食卓に着いていた。
5:30ファリサイ派の人々と、その仲間の律法学者たちは、弟子たちに不平を言った。「なぜあなたがたは、徴税人や罪人と一緒に飲み食いするのか。」
5:31イエスは答えられた。「医者を必要とするのは、健康な人ではなく、病気の人です。
5:32私が来たのは、正しい人を招くためではなく、罪人を悔い改めへ招くためです。」
5:33人々は言った。「ヨハネの弟子たちはよく断食し、祈りをささげます。ファリサイ派の弟子たちも同じです。しかし、あなたの弟子たちは飲み食いしています。」
5:34イエスは言われた。「花婿が一緒にいるのに、婚礼の客たちに断食させられますか。
5:35しかし、花婿が彼らから取り去られる日が来ます。その日々には断食するでしょう。」
5:36さらに、たとえを話された。「新しい服から布を裂き取って、古い服に継ぎを当てる人はいません。そんなことをすれば、新しい服を裂くことになり、その新しい布も古い服に合いません。
5:37また、新しいぶどう酒を古い革袋に入れる人はいません。そんなことをすれば、新しいぶどう酒が革袋を破り、酒は流れ出て、袋もだめになります。
5:38新しいぶどう酒は、新しい革袋に入れなければなりません。
5:39古いぶどう酒を飲んだ人は、新しいものを欲しがりません。『古いものは良い』と言うのです。」
第6章
6:1ある安息日、イエスが麦畑を通っておられると、弟子たちは穂を摘み、手でもんで食べていた。
6:2ファリサイ派の人たちの中に、「なぜ安息日に許されていないことをするのか」と言う者がいた。
6:3イエスは答えられた。「ダビデと連れの者たちが空腹になったとき、彼が何をしたか、それさえ読んだことがないのか。
6:4神の家に入り、祭司以外は食べることを許されていない供えのパンを取って食べ、連れの者たちにも与えたではないか。」
6:5そして言われた。「人の子は、安息日の主である。」
6:6別の安息日、イエスは会堂に入って教えられた。そこに、右手が萎えた人がいた。
6:7律法学者とファリサイ派の人々は、訴える口実を見つけようと、安息日にイエスが治すかどうかを見張っていた。
6:8イエスは彼らの考えを知り、手の萎えた人に言われた。「起きて、真ん中に立ちなさい。」その人は立ち上がり、そこに立った。
6:9イエスは彼らに言われた。「あなたがたに尋ねる。安息日に許されているのは、善を行うことか、悪を行うことか。命を救うことか、滅ぼすことか。」
6:10そして皆を見回し、その人に言われた。「手を伸ばしなさい。」そのとおりにすると、手は元どおりになった。
6:11しかし彼らは分別を失うほど怒り、イエスをどうしようかと話し合った。
6:12そのころ、イエスは祈るため山へ出かけ、一晩中、神への祈りに時を過ごされた。
6:13朝になると弟子たちを呼び、その中から十二人を選んで、使徒と名づけられた。
6:14ペトロと名づけたシモン、その兄弟アンデレ、ヤコブ、ヨハネ、フィリポ、バルトロマイ、
6:15マタイ、トマス、アルファイの子ヤコブ、熱心な者と呼ばれるシモン、15
6:16ヤコブの子ユダ、そして後に裏切り者となったイスカリオテのユダである。
6:17イエスは彼らと共に下り、平らな場所に立たれた。大勢の弟子たちと、ユダヤ全土、エルサレム、ティルスとシドンの海岸地方からの大群衆がいた。
6:18人々は教えを聞き、病気を癒やしてもらうために来ていた。汚れた霊に苦しめられている人たちも治してもらっていた。
6:19群衆は皆、イエスに触れようとしていた。イエスから力が出て、すべての人を癒やしていたからである。
6:20イエスは目を上げて弟子たちを見つめ、語られた。「貧しいあなたがたは幸いだ。神の国はあなたがたのものだから。
6:21今、飢えているあなたがたは幸いだ。満ち足りるようになるから。今、泣いているあなたがたは幸いだ。笑うようになるから。
6:22人の子のために、人々から憎まれ、仲間外れにされ、ののしられ、悪者としてその名を退けられるとき、あなたがたは幸いだ。
6:23その日には喜び、躍り上がりなさい。見よ、天での報いは大きい。その人たちの父祖も、預言者たちに同じことをしたのだ。
6:24しかし、富むあなたがたは災いだ。慰めをもう受け取っているから。
6:25今、満腹しているあなたがたは災いだ。飢えるようになるから。今、笑っているあなたがたは災いだ。悲しみ、泣くようになるから。
6:26すべての人から褒められるとき、あなたがたは災いだ。その人たちの父祖も、偽預言者たちに同じことをしたのだ。
6:27だが、聞いているあなたがたに言う。敵を愛しなさい。あなたがたを憎む者に善を行いなさい。
6:28呪う者を祝福し、侮辱する者のために祈りなさい。
6:29頬を打つ者には、もう一方も向けなさい。上着を奪う者には、肌着をも拒むな。
6:30求める者には誰にでも与え、あなたの物を取る者から、取り返そうとするな。
6:31人々にしてほしいと望むことを、同じように、人々にしなさい。
6:32自分を愛する人を愛したところで、どこに褒められるところがあるだろうか。罪人でさえ、自分を愛する人は愛している。
6:33自分によくしてくれる人によくしたところで、どこに褒められるところがあるだろうか。罪人も同じことをしている。
6:34返してもらえると思う人に貸したところで、どこに褒められるところがあるだろうか。罪人も、同じだけ返してもらおうとして、罪人に貸している。
6:35むしろ敵を愛し、善を行い、返してもらうことを当てにせず貸しなさい。そうすれば報いは大きく、あなたがたはいと高き方の子となる。この方は恩知らずな者や悪人にも、慈しみ深いからだ。16
6:36あなたがたの父が憐れみ深いように、憐れみ深い者になりなさい。
6:37裁いてはならない。そうすれば裁かれない。罪に定めてはならない。そうすれば罪に定められない。赦しなさい。そうすれば赦される。
6:38与えなさい。そうすれば与えられる。押し込み、揺すって詰め、あふれるほどの良い量りを、あなたがたの懐に入れてもらえる。あなたがたが量る、その量りで量り返されるのだ。」
6:39また、たとえを話された。「目の見えない人が、目の見えない人の道案内をできるだろうか。二人とも穴に落ちるのではないか。
6:40弟子は教師を超えない。しかし、十分に訓練された者は皆、その教師のようになる。
6:41なぜ兄弟の目にある小さな木くずを見つめながら、自分の目にある梁に気づかないのか。
6:42自分の目にある梁も見えないのに、どうして兄弟に、『兄弟、あなたの目の木くずを取らせてください』と言えるのか。偽善者よ、まず自分の目から梁を取り除け。そうすればはっきり見えて、兄弟の目の木くずを取り除ける。
6:43良い木が腐った実を結ぶことはなく、腐った木が良い実を結ぶこともない。
6:44木はそれぞれ、その実によって分かる。茨からいちじくを集めたり、藪からぶどうを摘んだりはしない。
6:45良い人は心に蓄えた良いものから善を取り出し、悪い人は悪いものから悪を取り出す。心にあふれるものを、その口が語るのだから。
6:46なぜ私を『主よ、主よ』と呼びながら、私の言うことを行わないのか。
6:47私のもとに来て、私の言葉を聞き、それを行う人がどのような者に似ているか、示そう。
6:48家を建てようとして深く掘り下げ、岩の上に土台を据えた人に似ている。洪水が起こり、川の流れがその家に激しくぶつかったが、揺り動かせなかった。しっかり建てられていたからだ。
6:49しかし、聞いても行わない人は、土台なしに地面の上に家を建てた人に似ている。川の流れがぶつかると、たちまち崩れ落ち、その家の壊れ方はひどかった。」
第7章
7:1イエスは、民に聞かせる言葉をすべて語り終えると、カファルナウムに入られた。
7:2ある百人隊長に、大切にしている奴隷がいた。その奴隷が重い病気で、死にかけていた。
7:3百人隊長はイエスのことを聞くと、ユダヤ人の長老たちを遣わし、来て奴隷を救ってくださるよう頼んだ。
7:4長老たちはイエスのもとに来て、熱心に願った。「あの人は、そうしていただくにふさわしい人です。
7:5私たちの民族を愛し、会堂も自分で建ててくれました。」
7:6イエスは彼らと出かけられた。家からそう遠くないところまで来られると、百人隊長は友人たちを遣わして伝えた。「主よ、お手を煩わせないでください。あなたを屋根の下にお迎えする資格は、私にはありません。
7:7ですから、自分でお伺いすることさえ、ふさわしくないと思いました。ただ、お言葉をください。それで私の僕を癒やしてください。
7:8私も権限の下に置かれた者で、自分の下には兵士がいます。一人に『行け』と言えば行き、別の者に『来い』と言えば来ます。奴隷に『これをしろ』と言えば、そのとおりにします。」
7:9イエスはこれを聞いて百人隊長に驚き、振り向いて、ついて来ていた群衆に言われた。「あなたがたに言う。イスラエルの中でさえ、これほどの信仰は見たことがない。」
7:10遣わされた人々が家に帰ると、奴隷は元気になっていた。
7:11その後、イエスはナインという町へ行かれた。弟子たちと大勢の群衆も一緒だった。
7:12町の門に近づくと、死人が運び出されてくるところだった。母親にとって一人息子であり、母はやもめだった。町の大勢の人が付き添っていた。
7:13主は母親をご覧になると、深く憐れみ、「泣かなくてよい」と言われた。
7:14近寄って棺台に触れられると、担いでいた者たちは立ち止まった。イエスは言われた。「若者よ、あなたに言う。起きなさい。」
7:15死んでいた者が起き直り、話し始めた。イエスは彼を母親にお返しになった。
7:16人々は皆、恐れにとらわれ、神をあがめて言った。「私たちの間に偉大な預言者が起こされた。神がご自分の民を訪れてくださった。」
7:17イエスについてのこの話は、ユダヤ全土と周辺一帯に広まった。
7:18ヨハネの弟子たちは、これらのことをすべて彼に報告した。ヨハネは弟子二人を呼び、
7:19主のもとへ遣わして尋ねた。「来られる方は、あなたなのですか。それとも、ほかの方を待つべきでしょうか。」
7:20二人はイエスのもとに来て言った。「洗礼者ヨハネが、私たちをあなたに遣わしました。『来られる方は、あなたなのですか。それとも、ほかの方を待つべきでしょうか』と申しております。」
7:21ちょうどそのとき、イエスは多くの人を病気や苦しみ、悪い霊から解き放ち、多くの目の見えない人に、見る力を恵んでおられた。
7:22イエスは答えられた。「行って、見たこと、聞いたことをヨハネに知らせなさい。目の見えない人が見えるようになり、足の不自由な人が歩き、重い皮膚病の人が清められ、耳の聞こえない人が聞き、死人が起こされ、貧しい人々に良い知らせが伝えられている。
7:23私のことでつまずかない人は、幸いだ。」
7:24ヨハネの使いが去ると、イエスは群衆にヨハネのことを話し始められた。「何を見に荒れ野へ出ていったのか。風に揺れる葦か。
7:25では、何を見に出ていったのか。柔らかい服を着た人か。華やかな服を着て、ぜいたくに暮らす人なら、王宮にいる。
7:26では、何を見に出ていったのか。預言者か。そうだ、言っておく。預言者以上の者だ。
7:27この人について、こう書かれている。『見よ、私はあなたに先立って使いを遣わす。その使いは、あなたの前に道を整える。』
7:28あなたがたに言う。女から生まれた者の中で、ヨハネより偉大な者はいない。しかし、神の国で最も小さい者も、彼より偉大だ。」
7:29これを聞いた民は皆、徴税人たちも含め、神の正しさを認めた。ヨハネの洗礼を受けていたからである。
7:30しかしファリサイ派の人々と律法の専門家たちは、ヨハネの洗礼を受けず、自分たちに対する神の御計画を退けた。
7:31「では、この時代の人々を何にたとえようか。彼らは何に似ているか。
7:32広場に座り、互いに呼びかける子どもたちに似ている。『笛を吹いてあげたのに踊らなかった。嘆きの歌を歌ったのに泣かなかった。』
7:33洗礼者ヨハネが来て、パンを食べず、ぶどう酒も飲まないと、あなたがたは『悪霊につかれている』と言う。
7:34人の子が来て、食べたり飲んだりすると、『見ろ、大食いの酒飲みだ。徴税人や罪人の仲間だ』と言う。
7:35だが、知恵の正しさは、そのすべての子らによって示される。」
7:36あるファリサイ派の人が、食事を共にするようイエスを招いた。イエスはその家に入り、食卓に着かれた。
7:37その町に、罪人である一人の女がいた。イエスがファリサイ派の人の家で食卓に着いておられると知り、香油の入った石膏の壺を持ってきた。
7:38そして後ろから足もとに立って泣き、涙でイエスの足を濡らし始めた。自分の髪でぬぐい、足に何度も口づけし、香油を塗った。
7:39招いたファリサイ派の人はそれを見て、心の中で言った。「この人が預言者なら、触れている女が誰で、どんな女か、罪人だということが分かるはずだ。」
7:40イエスは彼に答えられた。「シモン、あなたに言いたいことがある。」「先生、おっしゃってください」と彼は言った。
7:41「ある金貸しに、二人の借り手がいた。一人は五百デナリオン、もう一人は五十デナリオンを借りていた。
7:42二人とも返せなかったので、金貸しは両方の借金を帳消しにした。では、どちらが彼をより愛するだろうか。」
7:43シモンは答えた。「多く帳消しにしてもらった方だと思います。」イエスは言われた。「正しい判断だ。」
7:44そして女に向き直り、シモンに言われた。「この女を見ているか。私があなたの家に入っても、あなたは足を洗う水をくれなかった。しかし彼女は、涙で私の足を濡らし、髪でぬぐった。
7:45あなたは口づけをしなかった。しかし彼女は、私が入ってから、私の足に口づけしてやまなかった。
7:46あなたは私の頭に油を塗らなかった。しかし彼女は、私の足に香油を塗った。
7:47だからあなたに言う。彼女の多くの罪は赦されている。彼女が多く愛したことが、それを示している。少ししか赦されない者は、少ししか愛さない。」17
7:48そして女に言われた。「あなたの罪は赦されている。」
7:49同席していた人々は、心の中で言い始めた。「罪まで赦すこの人は、いったい何者だ。」
7:50イエスは女に言われた。「あなたの信仰があなたを救った。平安のうちに行きなさい。」
第8章
8:1その後、イエスは町や村を巡り、神の国を告げ知らせ、その良い知らせを伝えておられた。十二人も一緒にいた。
8:2悪い霊や病気から癒やされた女たちもいた。七つの悪霊が出ていった、マグダラと呼ばれるマリア、
8:3ヘロデの家令クザの妻ヨハナ、スサンナ、そのほか大勢の女たちである。彼女たちは、自分の財産を使って一行を支えていた。
8:4大勢の群衆が集まり、町々から人々が訪れてくると、イエスはたとえで語られた。
8:5「種を蒔く人が、自分の種を蒔きに出た。蒔いていると、ある種は道端に落ち、踏みつけられ、空の鳥に食べられた。
8:6別の種は岩の上に落ちた。芽が出たが、水分がないので枯れた。
8:7別の種は茨の中に落ちた。茨も一緒に伸びて、種から出た芽をふさいでしまった。
8:8また別の種は良い土地に落ち、育って百倍の実を結んだ。」こう話して、声を上げられた。「聞く耳のある者は、聞きなさい。」
8:9弟子たちは、このたとえが何を意味するのかと尋ねた。
8:10イエスは言われた。「あなたがたには神の国の秘められた事柄を知ることが与えられている。しかし、ほかの人々にはたとえで語られる。『見ても見えず、聞いても理解しない』ためだ。
8:11このたとえの意味はこうだ。種は神の言葉。
8:12道端のものは、聞く人々を表す。後から悪魔が来て、その心から言葉を取り去る。信じて救われることのないようにするのだ。
8:13岩の上のものは、聞くと喜んで言葉を受け入れる人々。しかし根がなく、しばらくは信じても、試練のときには離れてしまう。
8:14茨に落ちたものは、言葉を聞いた人々だが、歩むうちに、生活の心配や富、楽しみにふさがれ、実を熟させない。
8:15良い土地のものは、立派で善い心で言葉を聞き、それを保ち、忍耐して実を結ぶ人々だ。
8:16灯をともして、それを器で覆ったり、寝台の下に置いたりする人はいない。入ってくる人に光が見えるよう、燭台の上に置く。
8:17隠されていて、あらわにならないものはなく、秘められていて、知られず、公にならないものはない。
8:18だから、どのように聞くかに注意しなさい。持っている人にはさらに与えられ、持っていない人からは、持っていると思うものまで取り上げられる。」
8:19イエスの母と兄弟たちが来たが、群衆のために近づけなかった。
8:20「お母さまとご兄弟が外に立ち、あなたに会いたがっています」と知らせがあった。
8:21イエスは答えられた。「私の母、私の兄弟とは、神の言葉を聞いて行う、この人々のことだ。」
8:22ある日、イエスは弟子たちと舟に乗り、「湖の向こう岸へ渡ろう」と言われた。それで彼らは舟を出した。
8:23航行中、イエスは眠りにつかれた。すると突風が湖に吹き下ろし、舟は水をかぶって、危険な状態になった。
8:24弟子たちは近寄って起こし、「先生、先生、私たちは死んでしまいます」と言った。イエスは起き上がって風と荒波を叱りつけられた。すると静まり、凪になった。
8:25イエスは言われた。「あなたがたの信仰はどこにあるのか。」弟子たちは恐れ、驚いて言い合った。「この方はいったい誰だろう。風にも水にも命じ、それらが従うのだ。」
8:26一行は、ガリラヤの対岸にあるゲラサ人の地方に着いた。
8:27イエスが陸に上がられると、町の一人の男が出会った。悪霊につかれ、長い間衣服を着ず、家ではなく墓場に住んでいた。
8:28男はイエスを見ると叫び、ひれ伏し、大声で言った。「いと高き神の子イエス、私に何の用だ。お願いだ、苦しめないでくれ。」
8:29イエスが汚れた霊に、その人から出るよう命じておられたからである。霊は何度も彼を捕らえていた。人々は鎖や足かせでつないで監視したが、彼はそれを引きちぎり、悪霊に荒れ野へ駆り立てられていた。
8:30イエスは尋ねられた。「あなたの名は何か。」彼は「レギオン」と答えた。大勢の悪霊が入っていたからである。
8:31悪霊たちは、底なしの淵へ行けと命じないでほしいと願った。
8:32そこでは、多数の豚の群れが山で餌を食べていた。悪霊たちは、その豚に入ることを許してほしいと願い、イエスはお許しになった。
8:33悪霊たちは男から出て豚に入った。群れは崖を駆け下って湖に突入し、おぼれ死んだ。
8:34豚を飼っていた者たちは、この出来事を見て逃げ、町や農村に知らせた。
8:35人々は何が起きたのか見に出て、イエスのもとへ来た。すると、悪霊の去った男が服を着て正気になり、イエスの足もとに座っていたので、恐れた。
8:36目撃した人々は、悪霊につかれていた者が、どのように救われたかを知らせた。
8:37ゲラサ人の周辺地方の人々は皆、大きな恐れにとらわれ、イエスに立ち去ってほしいと頼んだ。イエスは舟に乗り、戻られた。
8:38悪霊の去った男は、一緒にいたいと願った。しかしイエスは送り出して言われた。
8:39「家に帰り、神があなたにしてくださったことを、すべて話しなさい。」男は去り、イエスが自分にしてくださったことを、町中に告げ知らせた。
8:40イエスが戻られると、群衆は喜んで迎えた。皆、待っていたのである。
8:41そこへヤイロという人が来た。会堂の指導者であった。イエスの足もとにひれ伏し、自分の家に来てくださるよう願った。
8:42十二歳ほどの一人娘が、死にかけていたからである。イエスが向かわれる途中、群衆が四方から押し寄せた。
8:43十二年間、出血が続く女がいた。医者に全財産を使い果たしたが、誰にも治せなかった。
8:44彼女は後ろから近づき、イエスの上着の房に触れた。するとたちまち出血が止まった。
8:45イエスは言われた。「私に触れたのは誰か。」皆が否定すると、ペトロは言った。「先生、群衆が押し合い、あなたに迫っています。」
8:46しかしイエスは言われた。「誰かが私に触れた。私から力が出ていったのが分かったのだ。」
8:47女は、隠しておけないと悟り、震えながら進み出てひれ伏した。そして、触れた理由と、たちまち癒やされたことを、民全体の前で話した。
8:48イエスは言われた。「娘よ、あなたの信仰があなたを救った。平安のうちに行きなさい。」
8:49まだ話しておられると、会堂の指導者の家から人が来て言った。「お嬢さんは亡くなりました。もう先生を煩わせないでください。」
8:50イエスはこれを聞き、答えられた。「恐れることはない。ただ信じなさい。娘は救われる。」
8:51家に着くと、ペトロ、ヨハネ、ヤコブ、娘の父と母のほかは、誰も一緒に入ることを許されなかった。
8:52人々は皆、娘のために泣き、胸を打って悲しんでいた。イエスは言われた。「泣くことはない。娘は死んだのではなく、眠っている。」
8:53人々は娘が死んだことを知っていたので、イエスをあざ笑った。
8:54しかしイエスは娘の手を取って呼びかけられた。「娘よ、起きなさい。」
8:55娘の霊が戻り、たちまち起き上がった。イエスは、娘に食べ物を与えるよう命じられた。
8:56両親は驚きに我を忘れた。しかしイエスは、この出来事を誰にも話さないよう命じられた。
第9章
9:1イエスは十二人を呼び集め、すべての悪霊に打ち勝ち、病気を治す力と権威をお与えになった。
9:2そして神の国を告げ知らせ、病人を癒やすために遣わされた。
9:3その際、言われた。「旅には何も持っていくな。杖も袋もパンも金も。肌着を二枚持つこともないように。
9:4どの家に入っても、そこにとどまり、そこから旅立ちなさい。
9:5受け入れない人々がいれば、その町を出るとき、足の埃を払い落としなさい。彼らに対する証しとするためだ。」
9:6十二人は出かけ、村々を巡り、至るところで良い知らせを伝え、病気を治した。
9:7領主ヘロデは、起きていることをすべて聞き、戸惑っていた。ある人々は、ヨハネが死人の中から起こされたと言い、
9:8別の人々は、エリヤが現れたと言い、また別の人々は、昔の預言者の一人が復活したと言っていたからである。
9:9ヘロデは言った。「ヨハネは、私が首をはねた。こんな話が耳に入ってくるこの人は、いったい誰なのか。」そして会いたいと思っていた。
9:10使徒たちは戻り、自分たちのしたことをすべてイエスに報告した。イエスは彼らを連れて退き、ベトサイダという町へ、ひそかに向かわれた。
9:11群衆はそれを知り、ついてきた。イエスは人々を迎え、神の国について話し、治療を必要とする人々を癒やされた。
9:12日が傾き始めた。十二人は近寄って言った。「群衆を解散させてください。周りの村や農村に行き、宿と食料を見つけられるように。ここは人里離れた場所です。」
9:13イエスは言われた。「あなたがたが、この人々に食べ物を与えなさい。」彼らは言った。「私たちにはパン五つと魚二匹しかありません。自分たちで行って、この民全体の食べ物を買ってくるのでなければ。」
9:14男だけで、およそ五千人いたのである。イエスは弟子たちに言われた。「五十人ほどずつの組にして、座らせなさい。」
9:15弟子たちはそのとおりにして、皆を座らせた。
9:16イエスは五つのパンと二匹の魚を取り、天を仰いで祝福し、裂いて弟子たちに渡し、群衆に配らせた。
9:17皆が食べて満腹した。残ったかけらを集めると、十二の籠になった。
9:18イエスがひとりで祈っておられ、弟子たちがそばにいたとき、尋ねられた。「群衆は、私を誰だと言っているか。」
9:19彼らは答えた。「洗礼者ヨハネだと言っています。エリヤだという人も、昔の預言者の一人が復活したのだという人もいます。」
9:20イエスは言われた。「では、あなたがたは私を誰だと言うか。」ペトロは答えた。「神のキリストです。」
9:21イエスは彼らを厳しく戒め、このことを誰にも話さないよう命じ、
9:22言われた。「人の子は必ず多くの苦しみを受け、長老、祭司長、律法学者たちから退けられ、殺され、三日目に起こされる。」
9:23また皆に言われた。「私の後について来たい者は、自分を否み、日々、自分の十字架を担い、私に従いなさい。
9:24自分の命を救おうとする者は、それを失う。しかし、私のために命を失う者は、それを救う。
9:25全世界を手に入れても、自分自身を滅ぼし、あるいは失ったなら、人に何の益があるだろう。
9:26私と私の言葉を恥じる者は、人の子も、自分の栄光と父の栄光、聖なる御使いたちの栄光のうちに来るとき、その者を恥じる。
9:27本当のことを言う。ここに立つ者の中には、神の国を見るまで、決して死を味わわない者もいる。」
9:28これらの言葉から八日ほど後、イエスはペトロ、ヨハネ、ヤコブを連れ、祈るため山に上られた。
9:29祈っておられる間に顔の様子が変わり、衣服は白くまばゆく輝いた。
9:30すると二人の人がイエスと語り合っていた。モーセとエリヤである。
9:31二人は栄光のうちに現れ、イエスがエルサレムで成し遂げようとしておられる、その出発について話していた。18
9:32ペトロと仲間たちは眠気に押さえられていたが、すっかり目を覚まし、イエスの栄光と、共に立つ二人を見た。
9:33二人がイエスから離れようとしたとき、ペトロは言った。「先生、私たちがここにいるのは、すばらしいことです。仮小屋を三つ建てましょう。あなたに一つ、モーセに一つ、エリヤに一つ。」自分が何を言っているのか分からなかったのである。
9:34こう話していると、雲が現れて彼らを覆った。彼らが雲の中に入ると、弟子たちは恐れた。19
9:35そして雲から声がした。「これは私の子、選ばれた者。この者に聞きなさい。」
9:36声がした後には、イエスだけがおられた。弟子たちは沈黙を守り、そのころは、見たことを何一つ誰にも知らせなかった。
9:37翌日、彼らが山から下りると、大勢の群衆がイエスを迎えた。
9:38群衆の一人が叫んだ。「先生、お願いです。息子を見てやってください。私の一人息子なのです。
9:39霊が取りつくと、突然叫びだします。霊は泡を吹かせ、激しくけいれんさせ、痛めつけて、なかなか離れません。
9:40あなたの弟子たちに追い出してほしいとお願いしましたが、できませんでした。」
9:41イエスは答えられた。「ああ、信じようとしない、ねじ曲がった時代の者たち。いつまであなたがたと共にいて、あなたがたに耐えねばならないのか。息子をここへ連れてきなさい。」
9:42近づいてくる途中でも、悪霊は息子を投げ倒し、けいれんさせた。イエスは汚れた霊を叱り、子を癒やして父に返された。
9:43人々は皆、神の偉大さに驚嘆した。皆がイエスのなさることすべてに驚いていると、イエスは弟子たちに言われた。
9:44「あなたがたは、この言葉をしっかり耳に入れておきなさい。人の子は、人々の手に引き渡されようとしている。」
9:45しかし弟子たちは、その言葉を理解しなかった。彼らにはそれが覆われていて、悟れなかったのである。そして、その言葉について尋ねるのを恐れていた。
9:46弟子たちの間に、自分たちのうち誰が一番偉いかという議論が起こった。
9:47イエスはその心の考えを知り、一人の子どもを取ってご自分のそばに立たせ、
9:48言われた。「私の名のためにこの子を受け入れる者は、私を受け入れる。私を受け入れる者は、私を遣わされた方を受け入れる。あなたがた皆の中で最も小さい者こそ、偉大なのだ。」
9:49ヨハネが言った。「先生、あなたの名を使って悪霊を追い出す人を見ました。私たちと共に従ってくる人ではないので、やめさせようとしました。」
9:50イエスは言われた。「やめさせてはならない。あなたがたに反対しない者は、あなたがたの味方だ。」
9:51ご自分が上げられる日々が満ちようとすると、イエスはエルサレムへ行く決意を固められた。20
9:52そして先に使いを遣わされた。使いは準備のため、サマリア人の村に入った。
9:53しかし村人は、イエスがエルサレムを目指しておられたので、受け入れなかった。
9:54弟子のヤコブとヨハネはこれを見て言った。「主よ、天から火を降らせて、彼らを焼き尽くすよう命じましょうか。」
9:55しかしイエスは振り向き、二人を叱られた。
9:56そして一行は別の村へ向かった。
9:57道を進んでいると、ある人が言った。「どこへ行かれても、私はあなたに従います。」
9:58イエスは言われた。「狐には穴があり、空の鳥には巣がある。しかし人の子には、頭を横たえる場所もない。」
9:59別の人には、「私に従いなさい」と言われた。その人は言った。「主よ、まず父を葬りに行くことをお許しください。」
9:60イエスは言われた。「死人には、自分たちの死人を葬らせなさい。あなたは行って、神の国を広く告げ知らせなさい。」
9:61また別の人が言った。「主よ、あなたに従います。ただ、まず家の者たちに別れを告げることをお許しください。」
9:62イエスは言われた。「鋤に手をかけてから後ろを振り返る者は、誰も神の国にふさわしくない。」
第10章
10:1その後、主は別に七十二人を任命し、ご自分が行こうとしておられるすべての町や場所へ、二人ずつ先に遣わされた。
10:2そして言われた。「収穫は多いが、働き手は少ない。だから収穫の主に、ご自分の収穫のために働き手を送り出してくださるよう願いなさい。
10:3行きなさい。見よ、私はあなたがたを、狼の中へ子羊を送るように遣わす。
10:4財布も袋も履物も持っていくな。道では誰にも挨拶するな。
10:5どの家に入っても、まず『この家に平和があるように』と言いなさい。
10:6そこに平和の子がいれば、あなたがたの平和はその人の上にとどまる。いなければ、あなたがたに戻ってくる。
10:7その家にとどまり、出されるものを飲み食いしなさい。働き手が報酬を受けるのは当然だからだ。家から家へ移ってはならない。
10:8どの町に入っても、受け入れられたら、出されるものを食べ、
10:9そこにいる病人を治し、『神の国はあなたがたのところへ近づいた』と言いなさい。
10:10どの町に入っても、受け入れられなければ、通りへ出て言いなさい。
10:11『足に付いたあなたがたの町の埃さえ、あなたがたに向けて払い落とす。しかし、神の国が近づいたことは知っておきなさい。』
10:12あなたがたに言う。あの日には、その町よりソドムの方が、まだ耐えやすい。
10:13コラジンよ、災いだ。ベトサイダよ、災いだ。あなたがたの間で行われた力ある業が、ティルスとシドンで行われていたなら、彼らはとうの昔に粗布を着て灰の中に座り、悔い改めていただろう。
10:14しかし裁きのときには、あなたがたよりティルスとシドンの方が、まだ耐えやすい。
10:15カファルナウムよ、あなたが天にまで高く上げられるとでもいうのか。陰府にまで落とされるのだ。
10:16あなたがたに聞く者は、私に聞く。あなたがたを退ける者は、私を退ける。私を退ける者は、私を遣わされた方を退ける。」
10:17七十二人は喜んで戻り、言った。「主よ、あなたの名によって、悪霊たちまで私たちに従います。」
10:18イエスは言われた。「私はサタンが、稲妻のように天から落ちるのを見ていた。
10:19見よ、私はあなたがたに、蛇やさそりを踏みつけ、敵のあらゆる力に打ち勝つ権限を与えた。何ものも決してあなたがたを害さない。
10:20しかし、霊が従うことを喜ぶのではなく、自分たちの名が天に記されていることを喜びなさい。」
10:21そのとき、イエスは聖霊によって喜びにあふれ、言われた。「父よ、天と地の主よ、あなたをほめたたえます。これらのことを知恵ある者や賢い者には隠し、幼子たちに明らかにしてくださいました。そうです、父よ、これこそ、あなたの御心にかなうことでした。」
10:22「すべては私の父から私に委ねられている。子が誰であるかを知る者は、父のほかにはいない。父が誰であるかを知る者は、子と、子が父を明らかにしようと望む者のほかにはいない。」
10:23それから弟子たちだけに向き直り、言われた。「あなたがたの見ているものを見る目は、幸いだ。
10:24言っておく。多くの預言者や王たちが、あなたがたの見ているものを見たいと望んだが見られず、聞いていることを聞きたいと望んだが聞けなかったのだ。」
10:25ある律法の専門家が立ち、イエスを試そうとして言った。「先生、何をしたら永遠の命を受け継げるでしょうか。」
10:26イエスは言われた。「律法に何と書いてあるか。あなたはどう読んでいるか。」
10:27彼は答えた。「心を尽くし、魂を尽くし、力を尽くし、思いを尽くして、あなたの神である主を愛しなさい。また、隣人を自分自身のように愛しなさい。」
10:28イエスは言われた。「正しい答えだ。そのとおりに行いなさい。そうすれば生きる。」
10:29しかし彼は、自分の正しさを示そうとして言った。「では、私の隣人とは誰ですか。」
10:30イエスは応じられた。「ある人がエルサレムからエリコへ下っていて、強盗に襲われた。強盗たちは服をはぎ、殴りつけ、半死半生のまま置き去りにして去った。
10:31たまたま、一人の祭司がその道を下ってきた。その人を見ると、反対側を通り過ぎた。
10:32同じようにレビ人も、そこへ来てその人を見ると、反対側を通り過ぎた。
10:33ところが、旅をしていた一人のサマリア人は、そばまで来てその人を見ると、深く憐れんだ。
10:34近づいて傷に油とぶどう酒を注ぎ、包帯をした。そして自分の家畜に乗せて宿屋へ連れていき、世話をした。
10:35翌日、二デナリオンを取り出して宿の主人に渡し、言った。『この人を世話してください。余計にかかった分は、帰りに私が払います。』
10:36この三人のうち、強盗に襲われた人の隣人になったのは、誰だと思うか。」
10:37彼は言った。「その人に憐れみを行った者です。」イエスは言われた。「行って、あなたも同じようにしなさい。」
10:38一行が道を進んでいると、イエスはある村に入られた。マルタという女が迎え入れた。
10:39彼女にはマリアという姉妹がいた。マリアはイエスの足もとに座り、その言葉を聞いていた。
10:40マルタは多くのもてなしの仕事に心を奪われていた。そばに来て言った。「主よ、姉妹が私一人にもてなしを任せているのを、何とも思われませんか。手伝うように言ってください。」
10:41主は答えられた。「マルタ、マルタ。あなたは多くのことを心配し、取り乱している。
10:42しかし、必要なのはわずかなもの、あるいは一つだ。マリアは良い方の分け前を選んだ。それは彼女から取り上げられない。」21
第11章
11:1イエスがある場所で祈っておられた。祈り終えると、弟子の一人が言った。「主よ、ヨハネが自分の弟子たちに教えたように、私たちにも祈ることを教えてください。」
11:2イエスは言われた。「祈るときには、こう言いなさい。『父よ、あなたの名が聖なるものとされますように。あなたの国が来ますように。
11:4私たちの罪をお赦しください。私たちも、自分たちに負い目のあるすべての人を赦しますから。私たちを試みに陥らせないでください。』」
11:5また言われた。「あなたがたのうち、友人がいて、真夜中にその家へ行き、こう言う人がいるとしよう。『友よ、パンを三つ貸してくれ。
11:6旅の途中の友人が来たのだが、出してやる物がないのだ。』
11:7相手が中から答える。『面倒をかけないでくれ。戸はもう閉めたし、子どもたちも私と一緒に床に入っている。起きて渡すことはできない。』
11:8あなたがたに言う。友人だからという理由で起きて与えなくても、頼みに来た者が遠慮せず求めるので起き上がり、必要なだけ与えるだろう。23
11:9そこであなたがたに言う。求めなさい。そうすれば与えられる。捜しなさい。そうすれば見つかる。たたきなさい。そうすれば開かれる。
11:10求める者は皆、受け取り、捜す者は見つけ、たたく者には開かれるからだ。
11:11あなたがたの中に、息子が魚を求めたのに、魚の代わりに蛇を渡す父親がいるだろうか。
11:12卵を求めたのに、さそりを渡すだろうか。
11:13あなたがたは悪い者でありながら、子どもには良い贈り物を与えることを知っている。それなら、天の父はなおさら、ご自分に求める者に聖霊を与えてくださる。」
11:14イエスが、口をきけなくする悪霊を追い出しておられた。悪霊が出ていくと、その人は話し始めた。群衆は驚いた。
11:15しかし、ある人々は言った。「悪霊どもの支配者ベルゼブルの力で、悪霊を追い出しているのだ。」
11:16また別の人々は、イエスを試し、天からのしるしを求めていた。
11:17イエスは彼らの考えを知り、言われた。「内部で分裂した王国は皆、荒れ果てる。家も、家に逆らえば倒れる。24
11:18サタンも内部で分裂しているなら、その王国はどうして立ち続けられるのか。あなたがたは、私がベルゼブルの力で悪霊を追い出していると言うが。
11:19私がベルゼブルの力で追い出すなら、あなたがたの子らは誰の力で追い出すのか。だから、その人たちがあなたがたを裁くことになる。25
11:20しかし、私が神の指によって悪霊を追い出しているなら、神の国はすでにあなたがたのところに来ている。
11:21強い者が武装して自分の屋敷を守っている間は、その持ち物は無事だ。
11:22しかし、さらに強い者が襲って勝てば、頼みにしていた武具をすべて奪い取り、分捕り品を分ける。
11:23私と共にいない者は、私に逆らっている。私と共に集めない者は、散らしている。
11:24汚れた霊は人から出ると、休み場を求めて、水のない場所を巡る。見つからないと、『出てきた自分の家に戻ろう』と言う。
11:25戻ってみると、家は掃き清められ、整えられている。
11:26そこで出かけ、自分より悪い霊を七つ連れてきて、中に入り、住み着く。その人の後の状態は、初めより悪くなる。」
11:27こう話しておられると、群衆の一人の女が声を上げた。「あなたを宿した胎、あなたを養った乳房は幸いです。」
11:28しかしイエスは言われた。「むしろ、神の言葉を聞き、それを守る人々が幸いなのです。」
11:29群衆がますます集まると、イエスは語り始められた。「この時代の人々は悪い。しるしを求めるが、ヨナのしるし以外は与えられない。
11:30ヨナがニネベの人々へのしるしになったように、人の子も、この時代の人々へのしるしとなる。
11:31南の女王は、裁きのとき、この時代の人々と共に起き上がり、彼らを罪に定める。彼女はソロモンの知恵を聞くため、地の果てから来たのだから。そして見よ、ここにはソロモンにまさるものがある。
11:32ニネベの人々は、裁きのとき、この時代の人々と共に立ち上がり、彼らを罪に定める。彼らはヨナの宣教を聞いて悔い改めたのだから。そして見よ、ここにはヨナにまさるものがある。
11:33灯をともして、それを隠れた場所や升の下に置く人はいない。入ってくる人に光が見えるよう、燭台に置く。
11:34体の灯は、あなたの目だ。目が澄んでいれば、体全体も明るい。しかし目が悪ければ、体も暗い。
11:35だから、自分の内の光が闇でないか、気をつけなさい。
11:36体全体が明るく、暗いところが少しもなければ、灯が輝いてあなたを照らすように、全体が明るくなる。」
11:37話し終えると、あるファリサイ派の人が食事に招いた。イエスは入って食卓に着かれた。
11:38その人は、イエスが食事の前にまず身を洗われなかったのを見て、驚いた。
11:39主は言われた。「さて、あなたがたファリサイ派の人々は、杯や皿の外側は清めるが、自分たちの内側は略奪と悪意で満ちている。
11:40愚かな者たち。外側を造った方は、内側も造られたのではないか。
11:41むしろ、中にあるものを施しとして与えなさい。そうすれば見よ、すべてがあなたがたにとって清くなる。26
11:42だが、ファリサイ派のあなたがたは災いだ。薄荷やヘンルーダや、あらゆる野菜の十分の一は献げるのに、公正と神への愛はなおざりにしている。これらこそ行うべきだったし、あれらも怠るべきではなかった。27
11:43ファリサイ派のあなたがたは災いだ。会堂の上席と、広場での挨拶を好むからだ。
11:44あなたがたは災いだ。見分けのつかない墓のようで、人々は知らずにその上を歩いている。」
11:45律法の専門家の一人が答えた。「先生、そのようにおっしゃると、私たちまで侮辱することになります。」
11:46イエスは言われた。「律法の専門家のあなたがたも災いだ。人には担いきれない重荷を負わせ、自分では指一本、その重荷に触れようとしない。
11:47あなたがたは災いだ。預言者たちの墓を建てるが、彼らを殺したのはあなたがたの父祖だ。
11:48だからあなたがたは、父祖の行いの証人となり、それを是認している。父祖は殺し、あなたがたは墓を建てるのだから。
11:49それゆえ神の知恵も言った。『私は彼らに預言者と使徒を遣わす。彼らは、その中の者たちを殺し、迫害する。』
11:50こうして、世界の基が据えられて以来流された、すべての預言者の血の責任が、この時代の人々に問われる。
11:51アベルの血から、祭壇と聖所の間で命を落としたザカリアの血まで。そうだ、あなたがたに言う。その責任が、この時代の人々に問われる。28
11:52律法の専門家のあなたがたは災いだ。知識の鍵を取り去り、自分では入らず、入ろうとする人々も妨げたからだ。」
11:53イエスがそこを出られると、律法学者とファリサイ派の人々は激しく迫り、多くのことについて答えを引き出そうとし始めた。
11:54その口から何かを捕らえようと、待ち伏せしていたのである。
第12章
12:1その間に、数え切れない群衆が集まり、互いを踏みつけるほどになった。イエスはまず弟子たちに語り始められた。「ファリサイ派のパン種、すなわち偽善に気をつけなさい。
12:2覆われていて、明らかにされないものはなく、隠されていて、知られないものはない。
12:3だから、闇の中で話したことは、光の中で聞かれる。奥の部屋で耳もとにささやいたことは、屋上から告げ知らされる。
12:4友であるあなたがたに言う。体を殺しても、その後は何もできない者たちを恐れるな。
12:5誰を恐れるべきか示そう。殺した後、ゲヘナに投げ込む権限を持つ方を恐れなさい。そうだ、あなたがたに言う。この方を恐れなさい。
12:6雀五羽が二アサリオンで売られているではないか。しかし、その一羽も、神の前で忘れられてはいない。
12:7あなたがたの頭の髪の毛さえ、すべて数えられている。恐れるな。あなたがたは、多くの雀よりも価値がある。
12:8あなたがたに言う。人々の前で私を認める者を、人の子も神の御使いたちの前で認める。
12:9しかし、人々の前で私を否む者は、神の御使いたちの前で否まれる。
12:10人の子に逆らう言葉を口にする者は、皆、赦される。しかし聖霊を冒瀆する者は赦されない。
12:11会堂や支配者、権力者の前に連れていかれるとき、どのように、何を弁明しようか、何を言おうかと思い悩むな。
12:12聖霊が、まさにそのとき、言うべきことを教えてくださる。」
12:13群衆の一人が言った。「先生、兄弟に、遺産を私と分けるよう言ってください。」
12:14イエスは言われた。「あなた、誰が私を、あなたがたの裁判官や分配人にしたのか。」
12:15そして人々に言われた。「よく気をつけて、あらゆる貪欲から身を守りなさい。あり余るほど持っていても、人の命は財産によるのではない。」
12:16そして、たとえを話された。「ある金持ちの土地が豊作になった。
12:17彼は心の中で考えた。『どうしよう。作物をしまう場所がない。』
12:18そして言った。『こうしよう。倉を壊してもっと大きい倉を建て、そこに麦と財産を全部しまおう。
12:19そして自分の魂に言おう。魂よ、何年も暮らせる豊かな蓄えがある。休め。食べて飲んで、楽しめ。』
12:20しかし神は言われた。『愚か者。今夜、お前の魂は、お前から取り立てられる。用意した物は、誰のものになるのか。』
12:21自分のためには宝を蓄えても、神に向かって豊かでない者は、このようになる。」
12:22イエスは弟子たちに言われた。「だから言っておく。命のことで、何を食べようか、体のことで、何を着ようかと思い悩むな。
12:23命は食べ物よりも、体は衣服よりも大切だ。
12:24烏のことを考えなさい。種も蒔かず、刈り入れもせず、物置も倉もない。それでも神は養ってくださる。あなたがたは鳥より、どれほど価値があることか。
12:25あなたがたの誰が、思い悩んだからといって、自分の生涯に一キュビトでも加えられるだろうか。29
12:26そんな小さなことさえできないのに、なぜほかのことで思い悩むのか。
12:27野の花がどう育つか、考えなさい。働きもせず、糸も紡がない。それでも言っておく。栄華を極めたソロモンさえ、この一つほどにも着飾ってはいなかった。
12:28今日野にあり、明日は炉に投げ込まれる草を、神がこのように装ってくださる。それなら、あなたがたには、なおさらではないか。信仰の薄い者たちよ。
12:29何を食べようか、何を飲もうかと追い求め、気をもんではならない。
12:30世界の諸民族は、それらすべてを追い求めている。しかし、あなたがたの父は、それらが必要だと知っておられる。
12:31むしろ、その方の国を求めなさい。そうすれば、これらのものも添えて与えられる。
12:32小さな群れよ、恐れるな。あなたがたの父は、喜んであなたがたに国を与えてくださるのだ。
12:33持ち物を売って施しなさい。古びない財布を自分たちのために作り、尽きない宝を天に蓄えなさい。そこには盗人も近づかず、虫も食い荒らさない。
12:34宝のあるところに、あなたがたの心もある。
12:35腰に帯を締め、灯をともしていなさい。
12:36婚礼から帰ってくる主人を待つ人々のようでありなさい。帰って戸をたたいたら、すぐ開けられるように。
12:37主人が帰ってきたとき、目を覚ましているところを見てもらえる奴隷たちは幸いだ。確かに言っておく。主人は帯を締め、彼らを食卓に着かせ、自分でそばに来て給仕する。
12:38第二の夜警時であっても、第三の夜警時であっても、帰ってきてそのような姿を見てもらえるなら、その者たちは幸いだ。
12:39このことを知っておきなさい。家の主人は、盗人が何時に来るか知っていれば、家に穴を開けられるままにはしない。
12:40あなたがたも備えていなさい。人の子は、思いもしない時刻に来るのだから。」
12:41ペトロは言った。「主よ、このたとえは、私たちにお話しなのですか。それとも、すべての人にもですか。」
12:42主は言われた。「では、主人が召使いたちの上に置き、時に応じて食料を配らせる、忠実で思慮深い管理人とは誰だろう。
12:43主人が帰ってきたとき、そのように働いているところを見てもらえる奴隷は幸いだ。
12:44本当に言っておく。主人はその者に、全財産を管理させるだろう。
12:45しかし、その奴隷が心の中で、『主人の帰りは遅い』と言い、男女の召使いを殴り始め、食べたり飲んだりして酔いつぶれるなら、
12:46主人は、その奴隷の予期しない日、思いもよらない時刻に帰ってくる。そして彼を真っ二つにし、不忠実な者たちと同じ取り分を与える。
12:47主人の望みを知りながら、準備もせず、その望みどおりに行いもしなかった奴隷は、激しく打たれる。
12:48しかし、知らずに打たれるに値することをした者は、打たれることも少ない。多く与えられた者は皆、多く求められる。多くを託された者は、さらに多く要求される。
12:49私は地に火を投じるために来た。その火がもう燃えていたらと、どれほど願うことか。30
12:50しかし私には、受けなければならない洗礼がある。それが成し遂げられるまで、どれほど胸が締めつけられることか。
12:51私が地に平和を与えるために来たと思うか。そうではない。言っておくが、むしろ分裂だ。
12:52今から、一つの家の五人は分かれ、三人が二人に、二人が三人に逆らう。
12:53父は息子に、息子は父に、母は娘に、娘は母に、しゅうとめは嫁に、嫁はしゅうとめに逆らい、分かれる。」
12:54群衆にも言われた。「西に雲が湧くのを見ると、すぐに『にわか雨が来る』と言う。すると、そのとおりになる。
12:55南風が吹けば、『暑くなる』と言う。すると、そのとおりになる。
12:56偽善者たち。地と空の様子は見分けられるのに、なぜこの時を見分けることはできないのか。
12:57なぜ、自分たちでも何が正しいかを判断しないのか。
12:58あなたを訴える相手と役人のもとへ行くときは、道の途中で、相手と和解できるよう努めなさい。そうしないと、相手はあなたを裁判官の前へ引きずっていき、裁判官は執行人に渡し、執行人は牢に投げ込む。
12:59あなたに言う。最後の一レプトンを返すまで、決してそこから出られない。」
第13章
13:1ちょうどそのころ、何人かの人が来て、ガリラヤ人たちのことを知らせた。ピラトが彼らを殺し、その血を彼らの献げるいけにえに混ぜたというのである。
13:2イエスは答えられた。「そのような苦しみを受けたから、このガリラヤ人たちは、ほかのすべてのガリラヤ人より罪深かったと思うか。
13:3そうではない。あなたがたに言う。悔い改めなければ、あなたがたも皆、同じように滅びる。
13:4また、シロアムの塔が倒れかかって死んだ十八人は、エルサレムに住むほかのすべての人より、罪の負い目が大きかったと思うか。
13:5そうではない。あなたがたに言う。悔い改めなければ、あなたがたも皆、同じように滅びる。」
13:6そして、このたとえを語られた。「ある人のぶどう園に、いちじくの木が植えてあった。実を捜しに来たが、見つからなかった。
13:7そこで園の世話をする人に言った。『もう三年、このいちじくの実を捜しに来ているのに、見つからない。切り倒せ。どうして土地まで無駄にしておくのか。』
13:8世話人は答えた。『ご主人、今年もう一年、そのままにしてください。周りを掘って、肥やしを入れてみます。
13:9来年、実を結べばよいのですが、そうでなければ、お切りください。』」
13:10イエスは安息日に、ある会堂で教えておられた。
13:11そこに十八年間、病弱にする霊につかれた女がいた。腰が曲がり、まったく体を伸ばせなかった。
13:12イエスは彼女を見ると呼び寄せ、言われた。「あなたはその病弱さから解き放たれた。」
13:13そして両手を置かれた。するとたちまち体がまっすぐになり、彼女は神をあがめた。
13:14しかし会堂の指導者は、イエスが安息日に治されたことを怒り、群衆に言った。「働くべき日は六日ある。その日に来て治してもらいなさい。安息日にはいけない。」
13:15主は答えられた。「偽善者たち。あなたがたは誰でも、安息日にも、牛やろばを飼い葉桶から解いて連れ出し、水を飲ませるではないか。
13:16この人はアブラハムの娘だ。サタンに十八年もの間つながれていた。この束縛から安息日に解かれるべきではなかったのか。」
13:17この言葉で、反対していた者たちは皆、恥じ入った。群衆は皆、イエスによって行われる栄えある業を、ことごとく喜んだ。
13:18そこでイエスは言われた。「神の国は何に似ているか。何にたとえようか。
13:19からしの種に似ている。人が取って自分の庭に蒔くと、成長して木になり、空の鳥がその枝に巣を作った。」
13:20また言われた。「神の国を何にたとえようか。
13:21パン種に似ている。女が取って三サトンの粉に混ぜ込むと、ついには全体が膨らんだ。」
13:22イエスは町や村を巡って教えながら、エルサレムへの旅を続けられた。
13:23ある人が尋ねた。「主よ、救われる人は少ないのですか。」イエスは人々に言われた。
13:24「狭い戸口から入るよう力を尽くしなさい。言っておくが、多くの者が入ろうとしても、入れない。
13:25家の主人が立って戸を閉めると、あなたがたは外に立ち、戸をたたいて『主よ、開けてください』と言い始める。しかし主人は答える。『お前たちがどこの者か、私は知らない。』
13:26そのとき、あなたがたは言い始める。『私たちはあなたの前で飲み食いしましたし、あなたは私たちの通りで教えられました。』
13:27だが主人は言う。『お前たちがどこの者か、私は知らない。不義を行う者たち、皆、私から離れよ。』
13:28アブラハム、イサク、ヤコブ、すべての預言者が神の国にいるのに、自分たちが外へ追い出されていくのを見るとき、そこで泣き、歯ぎしりすることになる。
13:29人々は東から西から、北から南から来て、神の国で食卓に着く。
13:30見よ、後の者で先になる者がおり、先の者で後になる者がいる。」
13:31ちょうどそのとき、何人かのファリサイ派の人が来て言った。「ここを出て、立ち去ってください。ヘロデがあなたを殺そうとしています。」
13:32イエスは言われた。「行って、あの狐に言いなさい。『見よ、私は今日も明日も悪霊を追い出し、癒やしを行う。そして三日目に、私は完成に達する。』
13:33しかし、今日も明日も、その次の日も、私は進んでいかなければならない。預言者がエルサレムの外で死ぬなど、あり得ないのだから。
13:34エルサレム、エルサレム。預言者たちを殺し、遣わされた人々を石で打つ町。雌鳥がひなを翼の下に集めるように、私は何度、あなたの子らを集めたいと願ったことか。しかし、あなたがたは望まなかった。
13:35見よ、あなたがたの家は、あなたがたのもとに置き去りにされる。言っておく。『主の名によって来られる方に祝福があるように』と言うときが来るまで、あなたがたは決して私を見ることがない。」
第14章
14:1ある安息日、イエスが食事のため、ファリサイ派の指導者の一人の家に入られると、人々はじっと様子をうかがっていた。
14:2目の前には、水腫を患う人がいた。
14:3イエスは律法の専門家とファリサイ派の人々に問いかけられた。「安息日に治すことは、許されているか、いないか。」
14:4彼らは黙っていた。イエスはその人をつかんで癒やし、去らせた。
14:5そして言われた。「あなたがたの誰が、自分の息子や牛が井戸に落ちたら、安息日であっても、すぐ引き上げずにいるだろうか。」
14:6彼らはこれに答えられなかった。
14:7イエスは、招かれた人々が上席を選んでいるのに気づき、たとえを話された。
14:8「婚礼に招かれたら、上席に着いてはならない。あなたより身分の高い人が招かれているかもしれない。
14:9あなたとその人を招いた主人が来て、『この方に席を譲ってください』と言えば、あなたは恥じ入りながら末席に着くことになる。
14:10むしろ、招かれたら行って末席に着きなさい。招いた人が来て、『友よ、もっと上の席へ』と言えば、同席する皆の前で名誉を受ける。
14:11自分を高める者は皆、低くされ、自分を低くする者は高められるからだ。」
14:12招いた人にも言われた。「昼食や夕食を用意するとき、友人や兄弟、親族、裕福な隣人を呼ぶな。その人たちも招き返して、あなたへの返礼となるかもしれない。
14:13むしろ宴を開くときには、貧しい人、体の不自由な人、足の不自由な人、目の見えない人を招きなさい。
14:14そうすれば幸いだ。彼らは返礼できないからだ。あなたには、正しい人々の復活のとき、返していただける。」
14:15同席者の一人がこれを聞き、言った。「神の国でパンを食べる人は幸いです。」
14:16イエスは言われた。「ある人が盛大な夕食を用意し、大勢を招いた。
14:17食事の時刻になると奴隷を遣わし、招いた人々に伝えさせた。『おいでください。もう用意ができました。』
14:18しかし皆、一斉に断り始めた。最初の人は言った。『畑を買ったので、見に行かなければなりません。どうか、欠席をお許しください。』
14:19別の人は言った。『牛を五くびき買ったので、試しに行くところです。どうか、欠席をお許しください。』
14:20また別の人は言った。『結婚したばかりなので、行けません。』
14:21奴隷が戻って報告すると、家の主人は怒り、言った。『急いで町の大通りと路地に出て、貧しい人、体の不自由な人、目の見えない人、足の不自由な人を、ここへ連れてきなさい。』
14:22奴隷は言った。『ご主人、命じられたとおりにしましたが、まだ席があります。』
14:23主人は言った。『道や垣根のところへ出て、無理にでも入らせなさい。私の家がいっぱいになるように。
14:24あなたがたに言っておくが、招かれていたあの人々は、誰一人、私の夕食を味わうことはないのだ。』」31
14:25大勢の群衆がイエスと共に進んでいた。イエスは振り向いて言われた。
14:26「私のもとに来ても、自分の父、母、妻、子ども、兄弟、姉妹、さらには自分の命まで憎まない者は、私の弟子にはなれない。32
14:27自分の十字架を担って私の後に来ない者は、私の弟子にはなれない。
14:28あなたがたの誰が、塔を建てようとするとき、まず座って費用を計算し、完成させるだけの金があるか確かめずにいるだろうか。
14:29土台を据えても完成できなければ、見る者は皆、嘲り始める。
14:30『この人は建て始めたが、完成できなかった。』
14:31また、ほかの王と戦いに出ようとする王が、まず座って、二万人で向かってくる相手を一万人で迎え撃てるか、考えずにいるだろうか。
14:32できなければ、相手がまだ遠くにいる間に使節を遣わし、和平の条件を求める。
14:33そのように、自分の持つすべてに別れを告げない者は、あなたがたの誰であっても、私の弟子にはなれない。
14:34塩は良いものだ。しかし塩まで味を失ったら、何によって味をつけられるだろう。
14:35土にも肥やしにも役立たず、外へ捨てられる。聞く耳のある者は、聞きなさい。」
第15章
15:1徴税人と罪人たちは皆、イエスの話を聞こうと近づいてきていた。
15:2ファリサイ派の人々と律法学者たちは、不平を言い続けた。「この人は罪人を迎え入れ、一緒に食事までしている。」
15:3そこでイエスは、このたとえを話された。
15:4「あなたがたの中で、羊を百匹持ち、その一匹を失ったら、九十九匹を荒れ野に残し、見つけるまで、失った一匹を捜しに行かない者がいるだろうか。
15:5見つけると、喜んで肩に担ぎ、
15:6家に帰り、友人や隣人を呼び集めて言う。『一緒に喜んでくれ。いなくなった私の羊が見つかったのだ。』
15:7あなたがたに言う。それと同じように、天では、悔い改めを必要としない九十九人の正しい人よりも、悔い改める一人の罪人のために喜びがある。
15:8また、十枚のドラクメ銀貨を持つ女が、一枚を失ったら、灯をともして家を掃き、見つけるまで念入りに捜すではないか。
15:9見つけると、女友達や近所の女たちを呼び集めて言う。『一緒に喜んでください。なくした銀貨が見つかりました。』
15:10あなたがたに言う。それと同じように、神の御使いたちの前では、悔い改める一人の罪人のために喜びが起こる。」
15:11また言われた。「ある人に二人の息子がいた。
15:12弟は父に言った。『お父さん、財産のうち、私の取り分をください。』それで父は、二人に財産を分けた。
15:13それから何日もたたないうちに、弟はすべてをまとめて遠い国へ旅立ち、そこで放縦な暮らしをして、財産を散らした。
15:14すべて使い果たしたころ、その国全体にひどい飢饉が起こり、彼は暮らしに困り始めた。
15:15そこで、その国の住民の一人のもとに身を寄せた。その人は彼を畑へ送り、豚の世話をさせた。
15:16彼は豚の食べるいなご豆で腹を満たしたいと思ったが、誰も何もくれなかった。
15:17彼は我に返って言った。『父の雇い人たちは、どれほど大勢、パンにあり余るほど恵まれていることか。それなのに私は、ここで飢え死にしようとしている。
15:18立って父のところへ行こう。そしてこう言おう。お父さん、私は天に対しても、お父さんの前でも罪を犯しました。
15:19もう、あなたの息子と呼ばれる資格はありません。雇い人の一人のようにしてください。』
15:20彼は立って父のもとへ向かった。まだ遠く離れていたのに、父は彼を見つけ、深く憐れみ、走り寄って首を抱き、何度も口づけした。
15:21息子は言った。『お父さん、私は天に対しても、お父さんの前でも罪を犯しました。もう、あなたの息子と呼ばれる資格はありません。』
15:22しかし父は奴隷たちに言った。『急いで最上の服を持ってきて着せなさい。手に指輪をはめ、足に履物を履かせなさい。
15:23肥えた子牛を連れてきて屠りなさい。食べて祝おう。
15:24この息子は死んでいたのに生き返った。いなくなっていたのに見つかったのだから。』そして祝い始めた。
15:25そのころ兄は畑にいた。帰ってきて家に近づくと、音楽と踊りの音が聞こえた。
15:26召使いの一人を呼び、何事かと尋ねた。
15:27召使いは言った。『弟さまがお帰りになりました。お父さまは、ご無事で迎えられたので、肥えた子牛を屠られたのです。』
15:28兄は怒って、入ろうとしなかった。父は出てきて、なだめ続けた。
15:29しかし兄は父に答えた。『ご覧ください。私はこれほど長年、奴隷のように仕え、一度も命令に背きませんでした。それなのに、友人たちと楽しむために、子山羊一匹もくださったことがありません。
15:30ところが、あなたの財産を娼婦たちと食い尽くした、このあなたの息子が帰ってくると、肥えた子牛を屠ってやったのです。』
15:31父は言った。『子よ、お前はいつも私と一緒にいる。私のものはすべて、お前のものだ。
15:32だが、祝って喜ぶべきだった。このお前の弟は、死んでいたのに生き返り、いなくなっていたのに見つかったのだから。』」
第16章
16:1イエスは弟子たちにも語られた。「ある金持ちに、一人の管理人がいた。その管理人が主人の財産を浪費していると、告げ口する者があった。
16:2主人は呼びつけて言った。『お前について聞いた話は、どういうことだ。管理の報告を出せ。もう管理を任せることはできない。』
16:3管理人は心の中で言った。『どうしよう。主人は私から管理の仕事を取り上げる。土を掘る力はない。物乞いは恥ずかしい。
16:4そうだ、こうしよう。仕事を辞めさせられても、人々が自分の家に迎えてくれるように。』
16:5そこで主人に負債のある人々を一人ずつ呼び、最初の人に言った。『うちの主人に、いくら借りていますか。』
16:6その人は言った。『油百バトスです。』管理人は言った。『あなたの証文を取り、すぐに座って、五十と書きなさい。』
16:7次に別の人に言った。『あなたはいくらですか。』『麦百コロスです。』管理人は言った。『あなたの証文を取り、八十と書きなさい。』
16:8主人は、この不正な管理人が抜け目なく行動したことを褒めた。この時代の子らは、自分たちの仲間との関わりでは、光の子らよりも抜け目がないのだ。33
16:9私もあなたがたに言う。不正にまつわる富を使って、自分たちのために友を作りなさい。その富が尽きるとき、永遠の住まいに迎え入れてもらえるように。
16:10ごく小さなことに忠実な者は、大きなことにも忠実だ。ごく小さなことに不正な者は、大きなことにも不正だ。
16:11だから、不正にまつわる富について忠実でなければ、誰が本当のものをあなたがたに託すだろうか。
16:12他人のものについて忠実でなければ、誰があなたがた自身のものを与えるだろうか。
16:13どんな家僕も、二人の主人に奴隷として仕えることはできない。一方を憎んで他方を愛するか、一方を重んじて他方を軽んじるからだ。あなたがたは、神と富との両方に仕えることはできない。」
16:14金を愛するファリサイ派の人々は、これらをすべて聞き、イエスを鼻で笑っていた。
16:15イエスは言われた。「あなたがたは、人々の前で自分を正しいとする者だ。しかし神は、あなたがたの心を知っておられる。人々の間で高く評価されるものは、神の前では忌むべきものだ。
16:16律法と預言者はヨハネまで。それ以来、神の国の良い知らせが伝えられ、誰もがそこへ力を尽くして入ろうとしている。34
16:17しかし、律法の文字の一画が落ちるよりも、天と地が過ぎ去る方が易しい。
16:18妻を離縁して別の女と結婚する者は皆、姦淫を犯す。夫から離縁された女と結婚する者も、姦淫を犯す。
16:19ある金持ちがいた。紫の衣と細かい亜麻布をまとい、毎日、華やかに楽しんで暮らしていた。
16:20その門前には、ラザロという貧しい人が、できものだらけの姿で寝かされていた。
16:21金持ちの食卓から落ちるもので腹を満たしたいと思っていた。それどころか、犬まで来て、そのできものをなめていた。
16:22やがて貧しい人は死に、御使いたちによって、アブラハムの懐へ運ばれた。金持ちも死んで葬られた。
16:23金持ちは陰府で苦しみの中にあり、目を上げると、遠くにアブラハムがいて、その懐にラザロがいるのを見た。
16:24そこで声を上げた。『父アブラハム、私を憐れんでください。ラザロを遣わし、指先を水に浸して、私の舌を冷やさせてください。この炎の中で苦しんでいるのです。』
16:25アブラハムは言った。『子よ、思い出しなさい。お前は生きている間に、良いものを受け取り、ラザロは同じように、悪いものを受け取った。今は、彼はここで慰められ、お前は苦しんでいる。
16:26そのうえ、私たちとお前たちの間には、大きな淵が設けられている。ここからそちらへ渡りたくても渡れず、そちらからこちらへも越えられない。』
16:27金持ちは言った。『では父よ、お願いします。ラザロを私の父の家へ遣わしてください。
16:28私には五人の兄弟がいます。この苦しみの場所へ来ないよう、彼らに厳しく警告させてください。』
16:29アブラハムは言った。『彼らにはモーセと預言者たちがいる。その人たちに聞けばよい。』
16:30金持ちは言った。『いいえ、父アブラハム。死人の中から誰かが行けば、彼らは悔い改めます。』
16:31アブラハムは言った。『モーセと預言者たちに聞かないなら、たとえ誰かが死人の中から復活しても、彼らは納得しない。』」
第17章
17:1イエスは弟子たちに言われた。「つまずきをもたらすものが起こらないわけにはいかない。しかし、それをもたらす者は災いだ。
17:2この小さい者の一人をつまずかせるよりは、首に石臼を掛けられ、海に投げ込まれる方が、その者にはましだ。
17:3気をつけなさい。兄弟が罪を犯したら戒め、悔い改めたら赦しなさい。
17:4一日に七度あなたに罪を犯し、七度戻ってきて『悔い改めます』と言うなら、赦しなさい。」
17:5使徒たちは主に言った。「私たちの信仰を増してください。」
17:6主は言われた。「からしの種ほどの信仰があれば、この桑の木に『根ごと抜け出し、海に植われ』と言っても、従うだろう。
17:7あなたがたに、畑を耕したり羊の世話をしたりする奴隷がいるとしよう。その者が畑から帰ったとき、『すぐこちらに来て、食卓に着け』と言うだろうか。
17:8むしろ、『夕食を用意し、帯を締めて、私が飲み食いする間、給仕せよ。その後で、お前が飲み食いするがよい』と言うのではないか。
17:9命じられたことをしたからといって、主人は奴隷に感謝するだろうか。
17:10同じようにあなたがたも、命じられたことをすべて行ったら、『私たちは役に立たない奴隷です。するべきことをしただけです』と言いなさい。」35
17:11エルサレムへの旅の途中、イエスはサマリアとガリラヤの間を通っておられた。
17:12ある村に入られると、重い皮膚病の男十人が、イエスに出会った。彼らは遠くに立ち、
17:13声を上げて言った。「イエスさま、先生、私たちを憐れんでください。」
17:14イエスは彼らを見て言われた。「行って、祭司たちに体を見せなさい。」彼らは向かう途中で清められた。
17:15その一人は、癒やされたと分かると、大声で神をあがめながら引き返してきた。
17:16そしてイエスの足もとに顔を伏せ、感謝した。この人はサマリア人だった。
17:17イエスは答えられた。「清められたのは十人ではなかったか。ほかの九人はどこにいるのか。
17:18神に栄光を帰すため戻ってきたのは、この異邦の人だけなのか。」
17:19そしてその人に言われた。「立って行きなさい。あなたの信仰があなたを救った。」
17:20ファリサイ派の人々が、神の国はいつ来るのかと尋ねた。イエスは答えられた。「神の国は、観察して見極められる仕方では来ない。
17:21『見よ、ここだ』『あそこだ』と言われるものでもない。見よ、神の国は、あなたがたの間にあるのだから。」36
17:22弟子たちには言われた。「人の子の日々のうち、たった一日でも見たいと願いながら、見られない日々が来る。
17:23人々はあなたがたに、『見よ、あそこだ』『見よ、ここだ』と言うだろう。出かけたり、追いかけたりするな。
17:24稲妻がひらめき、空の一方から他方まで照らすように、人の子もその日には、そのようになる。
17:25しかし、まず多くの苦しみを受け、この時代の人々から退けられなければならない。
17:26ノアの日々に起きたように、人の子の日々にも起こる。
17:27人々は食べ、飲み、妻を迎え、嫁いでいた。ノアが箱舟に入る日までそうしていたが、洪水が来て、皆を滅ぼした。
17:28ロトの日々にも、同じことが起きた。人々は食べ、飲み、買い、売り、植え、建てていた。
17:29しかしロトがソドムを出た日に、天から火と硫黄が降り、皆を滅ぼした。
17:30人の子が現される日も、同じようになる。
17:31その日、屋上にいる者は、家の中に物があっても、それを取りに下りるな。畑にいる者も同じように、後へ戻るな。
17:32ロトの妻を思い出しなさい。
17:33自分の命を保とうとする者は、それを失う。失う者は、それを生かす。
17:34あなたがたに言う。その夜、同じ寝台に二人がいて、一人は連れていかれ、もう一人は残される。
17:35二人の女が一緒に粉をひいていて、一人は連れていかれ、もう一人は残される。」
第18章
18:1イエスは、いつも祈り、気落ちしてはならないことを教えるため、弟子たちにたとえを話された。
18:2「ある町に、神を恐れず、人を重んじない裁判官がいた。
18:3同じ町に、一人のやもめがいた。彼女は何度も来て、『私を訴訟相手から守り、公正な裁きをしてください』と言った。
18:4裁判官は、しばらくは応じようとしなかった。しかし後に、心の中で言った。『私は神を恐れず、人も重んじないが、
18:5このやもめが面倒をかけるので、公正な裁きをしてやろう。いつまでも来て、私を打ちのめすことのないように。』」38
18:6主は言われた。「この不正な裁判官の言葉を聞きなさい。
18:7神は、昼も夜もご自分に叫ぶ、選ばれた人々のために、公正な裁きをなさらないだろうか。その人々のため、いつまでも延ばされるだろうか。39
18:8あなたがたに言う。神は速やかに、公正な裁きをしてくださる。しかし、人の子が来るとき、地上にこの信仰を見いだすだろうか。」
18:9また、自分たちは正しいと確信して、ほかの人々を見下している者たちに、このたとえを語られた。
18:10「二人の人が、祈るために神殿に上った。一人はファリサイ派の人、もう一人は徴税人だった。
18:11ファリサイ派の人は立ち、自分に向かってこう祈っていた。『神よ、感謝します。私は、ほかの人々のような略奪者、不正な者、姦淫する者ではありません。この徴税人のようでもありません。40
18:12週に二度断食し、得るものはすべて十分の一を献げています。』
18:13徴税人は遠くに立ち、目を天に上げようともせず、胸を打って言った。『神よ、罪人である私に、憐れみをお示しください。』
18:14あなたがたに言う。あの人ではなく、この人が義とされて家に下っていった。自分を高める者は皆、低くされ、自分を低くする者は高められる。」
18:15人々は、触れていただこうと、乳飲み子まで連れてきた。弟子たちはそれを見て、叱りつけていた。
18:16しかしイエスは子どもたちを呼び寄せ、言われた。「子どもたちを私のもとに来させなさい。妨げてはならない。神の国は、このような者たちのものだから。
18:17確かに言っておく。子どものように神の国を受け入れない者は、決してそこに入れない。」
18:18ある指導者が尋ねた。「善い先生、何をすれば永遠の命を受け継げるでしょうか。」
18:19イエスは言われた。「なぜ私を善いと言うのか。神おひとりのほかに、善い者はいない。
18:20戒めは知っているだろう。『姦淫するな。殺すな。盗むな。偽証するな。父と母を敬え。』」
18:21その人は言った。「それらはすべて、若いころから守ってきました。」
18:22イエスはこれを聞いて言われた。「まだ一つ、あなたに欠けているものがある。持っているものをすべて売り、貧しい人々に分けなさい。そうすれば天に宝を持つことになる。そして来て、私に従いなさい。」
18:23その人はこれを聞くと、深く悲しんだ。たいへんな金持ちだったからである。
18:24イエスはその人を見て言われた。「財産を持つ者が神の国に入るのは、なんと難しいことか。
18:25金持ちが神の国に入るよりも、らくだが針の穴を通る方が易しい。」
18:26聞いていた人々は言った。「それでは、誰が救われるでしょうか。」
18:27イエスは言われた。「人には不可能なことも、神には可能だ。」
18:28ペトロは言った。「ご覧ください。私たちは自分のものを捨てて、あなたに従ってきました。」
18:29イエスは言われた。「確かに言っておく。神の国のために、家、妻、兄弟、両親、子どもを捨てた者は、誰であっても、
18:30今の時に幾倍ものものを受け、来るべき時代には永遠の命を受ける。」
18:31イエスは十二人をそばに呼び、言われた。「見よ、私たちはエルサレムへ上る。預言者たちによって人の子について書かれたことが、すべて実現する。
18:32人の子は異邦人に引き渡され、嘲られ、辱められ、唾をかけられる。
18:33彼らは鞭打った後で殺す。しかし、人の子は三日目に復活する。」
18:34弟子たちは、それらを何一つ理解しなかった。この言葉は彼らに隠されていて、語られたことが分からなかったのである。
18:35イエスがエリコに近づかれると、一人の目の見えない人が、道端に座って物乞いをしていた。
18:36群衆が通るのを聞き、何事かと尋ねた。
18:37人々は、ナザレのイエスが通るのだと知らせた。
18:38すると彼は叫んだ。「イエスさま、ダビデの子よ、私を憐れんでください。」
18:39先を行く者たちは黙らせようと叱ったが、彼はますます叫んだ。「ダビデの子よ、私を憐れんでください。」
18:40イエスは立ち止まり、その人を連れてくるよう命じられた。近づくと、尋ねられた。
18:41「何をしてほしいのか。」彼は言った。「主よ、見えるようになりたいのです。」
18:42イエスは言われた。「見えるようになりなさい。あなたの信仰があなたを救った。」
18:43その人はたちまち見えるようになり、神をあがめながらイエスに従った。民は皆、それを見て神をほめたたえた。
第19章
19:1イエスはエリコに入り、町を通っておられた。
19:2そこにザアカイという人がいた。徴税人の頭で、金持ちだった。
19:3イエスがどんな方なのか見たいと思っていたが、背が低かったので、群衆に遮られて見えなかった。
19:4そこで先へ走り、いちじく桑の木に登った。イエスがそこを通ろうとしておられたからである。
19:5イエスはそこまで来ると、見上げて言われた。「ザアカイ、急いで下りてきなさい。今日はあなたの家に泊まらなければならない。」
19:6ザアカイは急いで下り、喜んでお迎えした。
19:7人々は皆、これを見て不平を言い続けた。「罪人の家に泊まりに入った。」
19:8ザアカイは立って主に言った。「主よ、ご覧ください。私の財産の半分を、貧しい人々に差し出します。また、誰かから何かを不当に取り立てたなら、四倍にして返します。」41
19:9イエスは言われた。「今日、この家に救いが来た。この人もまた、アブラハムの子なのだから。
19:10人の子は、失われた者を捜して救うために来た。」
19:11人々がこれらを聞いていると、イエスは続けてたとえを話された。エルサレムが近く、人々が、神の国はすぐに現れると思っていたからである。
19:12そこで言われた。「ある身分の高い人が、王権を受けて帰るため、遠い国へ出かけた。
19:13十人の奴隷を呼び、十ムナを渡して言った。『私が帰るまで、これで商売をしなさい。』
19:14ところが、その国の住民は彼を憎み、後から使節を送って言った。『私たちは、この人に王として治めてもらいたくない。』
19:15彼は王権を受けて帰ると、金を渡しておいた奴隷たちを呼ぶよう命じた。商売でどれほど得たかを知るためであった。
19:16最初の者が来て言った。『ご主人、あなたの一ムナが、十ムナをもうけました。』
19:17主人は言った。『よくやった、良い奴隷だ。ごく小さなことに忠実だったから、十の町を治める権限を持ちなさい。』
19:18二人目が来て言った。『ご主人、あなたの一ムナが、五ムナを生みました。』
19:19主人はこの者にも言った。『お前も五つの町を治めなさい。』
19:20もう一人が来て言った。『ご主人、これがあなたの一ムナです。布に包んでしまっておきました。
19:21あなたが恐ろしかったのです。あなたは厳しい方で、預けなかったものを取り立て、蒔かなかったものを刈り取られますから。』
19:22主人は言った。『悪い奴隷だ。お前の口から出た言葉で、お前を裁こう。私が厳しい者で、預けなかったものを取り立て、蒔かなかったものを刈り取ると知っていたのか。
19:23それなら、なぜ私の金を銀行に預けなかった。帰ったとき、利息と共に受け取れたはずだ。』
19:24そして、そばにいた者たちに言った。『この者から一ムナを取り上げ、十ムナ持つ者に与えなさい。』
19:25彼らは言った。『ご主人、その者は十ムナ持っています。』
19:26『お前たちに言う。持つ者には皆、与えられる。しかし持たない者からは、持っているものまで取り上げられる。42
19:27だが、私が王となって治めることを望まなかった、あの敵どもは、ここへ連れてきて、私の目の前で斬り殺せ。』」
19:28これらを語ると、イエスは先に立ち、エルサレムへ上っていかれた。
19:29オリーブと呼ばれる山のそば、ベトファゲとベタニアに近づくと、弟子二人を遣わし、
19:30言われた。「向こうの村へ行きなさい。入ると、まだ誰も乗ったことのない子ろばが、つながれているのを見つける。それを解いて、連れてきなさい。
19:31誰かが『なぜ解くのか』と尋ねたら、『主がお入り用なのです』と言いなさい。」
19:32遣わされた者たちが行くと、言われたとおりだった。
19:33子ろばを解いていると、その持ち主たちが言った。「なぜ子ろばを解くのか。」
19:34二人は答えた。「主がお入り用なのです。」
19:35子ろばをイエスのもとに連れてきて、自分たちの上着をその背に掛け、イエスをお乗せした。
19:36イエスが進まれると、人々は自分たちの上着を道に敷いていた。
19:37オリーブ山を下るあたりまで来られると、弟子の群れは皆、見てきた力ある業のすべてを喜び、大声で神をほめたたえ始めた。
19:38「主の名によって来られる王に祝福があるように。天には平和、いと高きところには栄光。」
19:39群衆の中の何人かのファリサイ派の人が言った。「先生、弟子たちを叱ってください。」
19:40イエスは答えられた。「あなたがたに言う。この人々が黙れば、石が叫ぶだろう。」
19:41近づいて町をご覧になると、イエスは町のために泣き、
19:42言われた。「今日、あなたも、平和に至ることを知っていたなら。しかし今、それはあなたの目から隠されている。
19:43あなたに日々が来る。敵が周りに柵を築き、取り囲み、四方から閉じ込める。
19:44あなたと、中にいるあなたの子らを地に打ち倒し、あなたの中で、石を石の上に一つも残さない。あなたを訪れてくださる時を、知らなかったからだ。」
19:45それから神殿に入り、物を売る者たちを追い出し始め、
19:46言われた。「『私の家は祈りの家となる』と書いてある。それなのに、あなたがたはそれを強盗の巣にした。」
19:47イエスは毎日、神殿で教えておられた。祭司長と律法学者、民の有力者たちは、イエスを殺そうとしていた。
19:48しかし、どうすればよいか見つからなかった。民が皆、イエスの言葉に聞き入って、離れようとしなかったからである。
第20章
20:1ある日、イエスが神殿で民を教え、良い知らせを伝えておられると、祭司長と律法学者たちが、長老たちと共に近寄ってきた。
20:2そして言った。「何の権威でこのようなことをするのか、我々に言いなさい。誰があなたに、その権威を与えたのか。」
20:3イエスは答えられた。「私も一つ尋ねよう。答えなさい。
20:4ヨハネの洗礼は、天からのものだったか、人からのものだったか。」
20:5彼らは話し合った。「『天から』と言えば、『なぜ信じなかったのか』と言うだろう。
20:6『人から』と言えば、民全体が我々を石で打つだろう。ヨハネは預言者だと確信しているからだ。」
20:7そこで、どこからか分からないと答えた。
20:8イエスは言われた。「それなら私も、何の権威でこれらを行うのか、あなたがたに言うまい。」
20:9イエスは民に、このたとえを語り始められた。「ある人がぶどう園を造り、農夫たちに貸して、長い旅に出た。
20:10時が来ると、収穫の取り分を渡してもらうため、農夫たちに奴隷を遣わした。しかし農夫たちは殴りつけ、何も持たせず追い返した。
20:11主人はもう一人、奴隷を遣わした。農夫たちはその者も殴って辱め、何も持たせず追い返した。
20:12さらに三人目を遣わすと、その者にも傷を負わせ、追い出した。
20:13ぶどう園の主人は言った。『どうしよう。愛する息子を遣わそう。この子なら敬うかもしれない。』
20:14ところが農夫たちは息子を見ると、話し合った。『これは跡継ぎだ。殺してしまおう。そうすれば、相続財産は我々のものになる。』
20:15そして息子をぶどう園の外へ追い出し、殺した。では、ぶどう園の主人は彼らをどうするだろうか。
20:16やって来てその農夫たちを滅ぼし、ぶどう園をほかの人々に与えるだろう。」聞いた人々は言った。「そんなことになってはならない。」
20:17イエスは彼らを見つめて言われた。「では、こう書いてあるのはどういうことか。『家を建てる者たちが退けた石、それが隅のかしら石になった。』
20:18その石の上に落ちる者は皆、砕かれる。その石が誰かの上に落ちれば、その者を粉々にする。」
20:19律法学者と祭司長たちは、すぐにもイエスに手をかけようとしたが、民を恐れた。このたとえが自分たちに向けて語られたと分かったからである。
20:20彼らは機会をうかがい、正しい人のふりをする回し者を遣わした。言葉尻を捕らえて、総督の支配と権限に引き渡すためである。
20:21回し者たちは尋ねた。「先生、あなたが正しく話し、教え、人を分け隔てせず、真実に従って神の道を教えておられることを、私たちは知っています。
20:22私たちが皇帝に税を納めることは、許されているでしょうか、いないでしょうか。」
20:23イエスは彼らの悪賢さを見抜いて言われた。
20:24「デナリオン銀貨を見せなさい。誰の肖像と銘があるか。」彼らは答えた。「皇帝のものです。」
20:25イエスは言われた。「それなら、皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返しなさい。」
20:26彼らは民の前で、その言葉を捕らえることができなかった。答えに驚き、黙り込んだ。
20:27復活はないと主張するサドカイ派の人々が、何人か近寄って尋ねた。
20:28「先生、モーセは私たちに、こう書きました。ある人の兄弟が、妻を残して子のないまま死んだら、その人は兄弟の妻を迎え、兄弟のために子孫を起こさなければならない、と。
20:29さて、七人の兄弟がいました。最初の者は妻を迎えましたが、子がないまま死にました。
20:30二番目も、
20:31三番目も、その女を妻にしました。同じように、七人とも子を残さず死にました。
20:32最後に女も死にました。
20:33では復活のとき、女は誰の妻になるのでしょう。七人とも、その女を妻にしたのですから。」
20:34イエスは言われた。「この時代の子らは、妻を迎え、嫁ぐ。
20:35しかし、かの時代と、死人の中からの復活にあずかるにふさわしいとされた者たちは、妻を迎えることも、嫁ぐこともない。
20:36彼らはもはや死ぬことがありえないからだ。御使いと等しい者だからである。そして、復活の子らであるので、神の子らなのだ。
20:37死人が起こされることは、モーセも茨の箇所で示している。主を『アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神』と呼んでいるのだから。
20:38神は死んだ者の神ではなく、生きている者の神だ。神に対しては、皆が生きているのだから。」
20:39律法学者の何人かが答えた。「先生、よくおっしゃいました。」
20:40彼らはもはや、あえて何も尋ねようとはしなかったのである。
20:41イエスは彼らに言われた。「どうして人々は、キリストをダビデの子と言うのか。
20:42ダビデ自身が詩編の書で言っている。『主は私の主に言われた。私の右に座りなさい。
20:43私があなたの敵を、あなたの足台にするまで。』
20:44このようにダビデは、キリストを主と呼んでいる。それなら、どうしてダビデの子なのか。」
20:45民全体が聞いているところで、イエスは弟子たちに言われた。
20:46「律法学者たちに気をつけなさい。長い衣を着て歩くことを望み、広場での挨拶、会堂の上席、宴会の上座を好む。
20:47やもめたちの家を食い尽くし、見せかけに長い祈りをする。その者たちは、いっそう重い裁きを受ける。」
第21章
21:1イエスは目を上げ、金持ちたちが献金箱に贈り物を入れるのをご覧になった。
21:2また、貧しいやもめが、そこに二レプトンを入れるのをご覧になった。
21:3そして言われた。「本当のことを言う。この貧しいやもめは、誰よりも多く入れた。
21:4あの人たちは皆、あり余るものの中から献げた。しかしこの人は、乏しさの中から、生きるために持っていたものを、すべて入れたのだ。」
21:5何人かが、神殿は美しい石や奉納物で飾られていると話していると、イエスは言われた。
21:6「あなたがたが見ているこれらのものは、石の上に石が一つも残らず、すべて崩される日が来る。」
21:7人々は尋ねた。「先生、では、そのことはいつ起こるのですか。また、起ころうとするとき、どんなしるしがあるのですか。」
21:8イエスは言われた。「惑わされないよう気をつけなさい。多くの者が私の名を名乗って来て、『私がその者だ』『時が近づいた』と言う。彼らについていくな。
21:9戦争や騒乱の話を聞いても、おびえるな。まず、これらは起こらなければならない。しかし、すぐに終わりが来るのではない。」
21:10それから言われた。「民族は民族に、王国は王国に敵対して立ち上がる。
21:11大地震があり、各地に飢饉と疫病が起こる。恐ろしい出来事と、天からの大きなしるしもある。
21:12しかし、これらすべてに先立って、人々はあなたがたに手をかけ、迫害する。会堂や牢に引き渡し、私の名のために王や総督の前へ連れていく。
21:13それは、あなたがたが証しをする機会となる。
21:14だから、あらかじめ弁明を練習しないと、心に決めておきなさい。
21:15私があなたがたに言葉と知恵を与える。敵対する者たちが誰も、抵抗したり反論したりできないものを。
21:16あなたがたは、親、兄弟、親族、友人からさえ引き渡される。あなたがたの中には、殺される者もいる。
21:17私の名のために、すべての人から憎まれる。
21:18しかし、あなたがたの頭の髪一本も、決して失われない。
21:19忍耐によって、自分たちの命を勝ち取りなさい。
21:20エルサレムが軍隊に囲まれるのを見たら、その荒廃が近づいたと知りなさい。
21:21そのとき、ユダヤにいる者は山へ逃げなさい。町の中にいる者は出ていき、田舎にいる者は町に入ってはならない。
21:22それは報いの日々であり、書かれたことがすべて実現するためなのだ。
21:23その日々、身ごもっている女たち、乳を飲ませている女たちは災いだ。この地に大きな苦難があり、この民に怒りが臨むからだ。
21:24人々は剣の刃に倒れ、あらゆる民族のもとへ捕虜として連れていかれる。エルサレムは、諸民族の時が満ちるまで、諸民族に踏みつけられる。
21:25太陽、月、星にしるしが現れる。地上では、諸民族が海と波のとどろきに途方に暮れ、苦悩する。
21:26人々は、世界に起ころうとしていることへの恐怖と予感に、息も絶えようとする。天の諸力が揺り動かされるからだ。
21:27そのとき人々は、人の子が力と大いなる栄光を帯び、雲に乗って来るのを見る。
21:28これらが起こり始めたら、身を起こし、頭を上げなさい。あなたがたの解放が近づいているからだ。」
21:29イエスは、たとえを話された。「いちじくの木と、すべての木を見なさい。
21:30芽を出せば、それを見て、夏がもう近いと自分たちで分かる。
21:31それと同じように、これらが起こるのを見たら、神の国が近いと知りなさい。
21:32確かに言っておく。すべてが起こるまで、この時代の人々は決して過ぎ去らない。
21:33天と地は過ぎ去る。しかし、私の言葉は決して過ぎ去らない。
21:34気をつけなさい。飲み過ぎや酔い、生活の心配で心を重くし、あの日が突然、あなたがたを襲うことのないように――
21:35罠のように。その日は、全地の面に住むすべての人に臨むからだ。
21:36いつも目を覚まして祈りなさい。起ころうとしているこれらすべてを逃れ、人の子の前に立つ力を得られるように。」
21:37イエスは昼は神殿で教え、夜は出て、オリーブと呼ばれる山で過ごしておられた。
21:38民は皆、話を聞こうと、朝早くから神殿のイエスのもとへ来ていた。
第22章
22:1過越祭と呼ばれる、種なしパンの祭りが近づいていた。
22:2祭司長と律法学者たちは、どうすればイエスを殺せるか探っていた。民を恐れていたのである。
22:3そのとき、十二人の一人、イスカリオテと呼ばれるユダにサタンが入った。
22:4ユダは出かけ、祭司長と神殿の警備隊長たちに、どうすればイエスを引き渡せるか相談した。
22:5彼らは喜び、金を渡すことに同意した。
22:6ユダは承諾し、群衆のいないところでイエスを引き渡す機会を捜していた。
22:7過越の小羊を屠るべき、種なしパンの日が来た。
22:8イエスはペトロとヨハネを遣わして言われた。「行って、私たちが食べる過越の食事を用意しなさい。」
22:9二人は尋ねた。「どこに用意しましょうか。」
22:10イエスは言われた。「見よ、町に入ると、水瓶を運ぶ男に出会う。その人について、入る家まで行きなさい。
22:11そして家の主人に言いなさい。『先生が、あなたにこうお尋ねです。弟子たちと過越の食事をする客間はどこか、と。』
22:12主人は、席の整った広い二階の部屋を見せてくれる。そこに用意しなさい。」
22:13二人が行くと、言われたとおりだった。それで過越の食事を用意した。
22:14時刻になると、イエスは使徒たちと食卓に着かれた。
22:15そして言われた。「苦しみを受ける前に、この過越の食事をあなたがたと共にしたいと、切に願っていた。
22:16言っておく。それが神の国で成就するまで、私はもう過越の食事をすることはない。」
22:17そして杯を受け取り、感謝をささげて言われた。「これを取り、互いに分けなさい。
22:18言っておく。今から、神の国が来るまで、私はぶどうの実からできたものを決して飲まない。」
22:19またパンを取り、感謝をささげて裂き、彼らに与えて言われた。「これは私の体である。[あなたがたのために与えられるものだ。私を覚えるために、このように行いなさい。」43
22:20食事の後、杯も同じようにして、言われた。「この杯は、あなたがたのために流される、私の血による新しい契約だ。」]
22:21「しかし見よ、私を引き渡す者の手が、私と共に食卓にある。
22:22人の子は、定められたとおりに去っていく。しかし、人の子を引き渡すその者は災いだ。」
22:23使徒たちは、自分たちのうち、いったい誰がそんなことをしようとしているのかと、互いに問い始めた。
22:24また、自分たちのうち誰が一番偉いと思われるかという、争いも起こった。
22:25イエスは言われた。「諸民族の王たちは人々を支配し、権力を振るう者たちは『恩人』と呼ばれる。
22:26しかし、あなたがたはそうであってはならない。あなたがたのうち最も偉い者は最も若い者のように、導く者は仕える者のようになりなさい。
22:27食卓に着く者と給仕する者とでは、どちらが偉いか。食卓に着く者ではないか。しかし私は、あなたがたの間で、給仕する者のようにしている。
22:28あなたがたは、私が試練を受ける間も、共にとどまり続けた者たちだ。
22:29私の父が私に王国を授けてくださったように、私もあなたがたに授ける。44
22:30あなたがたが私の王国で私の食卓に着いて飲み食いし、王座に座り、イスラエルの十二部族を裁くためだ。
22:31シモン、シモン。見よ、サタンはあなたがたを麦のようにふるいにかけることを求めた。
22:32しかし私は、あなたの信仰が尽きないよう、あなたのために祈った。あなたも、立ち返ったら、兄弟たちを力づけなさい。」45
22:33ペトロは言った。「主よ、私はあなたと一緒なら、牢にでも、死にでも向かう覚悟です。」
22:34イエスは言われた。「ペトロ、あなたに言う。今日、鶏が鳴くまでに、あなたは三度、私を知っていることを否む。」
22:35そして一同に言われた。「財布も袋も履物も持たせず遣わしたとき、何か足りないものがあったか。」彼らは答えた。「何もありませんでした。」
22:36イエスは言われた。「しかし今は、財布のある者は持っていきなさい。袋も同じだ。剣のない者は、上着を売って剣を買いなさい。46
22:37言っておく。『不法な者たちの仲間に数えられた』と書かれたことが、私において実現しなければならない。私についてのことは、成就に至るのだ。」
22:38彼らは言った。「主よ、ご覧ください。ここに剣が二本あります。」イエスは言われた。「それで十分だ。」47
22:39イエスは出て、いつものようにオリーブ山へ行かれた。弟子たちも従った。
22:40その場所に着くと、言われた。「試みに陥らないよう祈りなさい。」
22:41そして弟子たちから石を投げて届くほど離れ、膝をついて祈られた。
22:42「父よ、お望みでしたら、この杯を私から取り去ってください。しかし、私の望みではなく、あなたの望みが実現しますように。」
22:43すると天から御使いが現れ、イエスを力づけた。
22:44イエスは苦悶の中で、いっそう切に祈られた。その汗は、血の塊のようになって地に落ちた。48
22:45祈りから立ち上がり、弟子たちのもとへ来られると、彼らは悲しみのために眠り込んでいた。
22:46イエスは言われた。「なぜ眠っているのか。起きて、試みに陥らないよう祈りなさい。」
22:47まだ話しておられると、群衆が来た。十二人の一人、ユダと呼ばれる者が先頭に立ち、口づけしようとイエスに近づいた。
22:48イエスは言われた。「ユダ、口づけで人の子を引き渡すのか。」
22:49周りにいた者たちは、これから起こることを察して言った。「主よ、剣で切りつけましょうか。」
22:50そして一人が大祭司の奴隷に切りつけ、右の耳を切り落とした。
22:51イエスは答えられた。「そこまでにしておきなさい。」そして耳に触れ、その人を癒やされた。49
22:52それから、捕らえに来た祭司長、神殿の警備隊長、長老たちに言われた。「強盗に向かうように、剣や棒を持って来たのか。
22:53毎日、神殿であなたがたと一緒にいたのに、私に手をかけなかった。しかし今は、あなたがたの時、闇が権力を振るう時だ。」
22:54人々はイエスを捕らえて連れ去り、大祭司の家に引き入れた。ペトロは遠くからついていった。
22:55人々が中庭の真ん中に火をたき、一緒に座ると、ペトロもその中に座った。
22:56ある女の奴隷が、火のそばに座るペトロを見つけ、じっと見つめて言った。「この人も、あの人と一緒にいました。」
22:57ペトロは否んだ。「女よ、私はあの人を知らない。」
22:58少しして、別の人がペトロを見て言った。「あなたもあの仲間だ。」ペトロは言った。「あなた、私は違う。」
22:59一時間ほどたつと、また別の人が強く言い張った。「確かに、この人も一緒にいた。ガリラヤ人なのだから。」
22:60ペトロは言った。「あなた、何を言っているのか、私には分からない。」すると、まだ話しているそのとき、たちまち鶏が鳴いた。
22:61主は振り向いてペトロを見つめられた。ペトロは、「今日、鶏が鳴く前に、あなたは三度、私を否む」と言われた主の言葉を思い出した。
22:62そして外へ出て、激しく泣いた。
22:63イエスを見張っていた男たちは、殴りながら嘲っていた。
22:64目隠しをして、「預言してみろ。殴ったのは誰だ」と尋ねた。
22:65ほかにも、多くの侮辱の言葉を浴びせた。
22:66夜が明けると、民の長老会、すなわち祭司長たちと律法学者たちが集まり、イエスを自分たちの議会に連れていった。
22:67そして言った。「お前がキリストなら、我々に言え。」イエスは言われた。「私が言っても、あなたがたは決して信じない。
22:68私が尋ねても、あなたがたは決して答えない。
22:69しかし今から後、人の子は、力ある神の右に座っている。」50
22:70皆が言った。「では、お前は神の子なのか。」イエスは言われた。「私がそうだとは、あなたがたが言っている。」51
22:71彼らは言った。「これ以上、何の証言が必要か。我々自身、この口から聞いたのだ。」
第23章
23:1一同は立ち上がり、イエスをピラトのもとへ連れていった。
23:2そして訴え始めた。「この者が我々の民族を惑わし、皇帝への納税を禁じ、自分をキリストである王だと言っているのを見つけました。」
23:3ピラトは尋ねた。「お前がユダヤ人の王なのか。」イエスは答えられた。「あなたがそう言っています。」
23:4ピラトは祭司長と群衆に言った。「この人に罪の根拠は何も見つからない。」
23:5しかし彼らは言い張った。「この者は、ガリラヤからここまで、ユダヤ全土で教え、民を扇動しています。」
23:6ピラトはそれを聞くと、この人はガリラヤ人かと尋ねた。
23:7ヘロデの管轄下の者だと分かると、ヘロデのもとへ送った。ヘロデもそのころ、エルサレムにいたのである。
23:8ヘロデはイエスを見ると、たいへん喜んだ。イエスのことを聞き、かなり前から会いたいと思い、何かしるしを行うのを見たいと期待していたからである。
23:9ヘロデは多くの言葉で問いただしたが、イエスは何もお答えにならなかった。
23:10祭司長と律法学者たちはそこに立ち、激しく訴えていた。
23:11ヘロデも兵士たちと共にイエスを侮り、嘲った。そして華やかな衣を着せ、ピラトへ送り返した。
23:12その日、ヘロデとピラトは互いに友となった。それまでは敵対していたのである。
23:13ピラトは祭司長、指導者たち、民を呼び集め、
23:14言った。「あなたがたはこの人を、民を惑わす者として連れてきた。しかし、あなたがたの前で取り調べても、訴えているような罪の根拠は、この人には何一つ見つからなかった。
23:15ヘロデも同じだ。こちらへ送り返してきたのだから。見てのとおり、この人は死に値することを何もしていない。
23:16だから、懲らしめたうえで釈放する。」
23:18しかし人々は一斉に叫んだ。「この者を除け。我々にはバラバを釈放しろ。」
23:19バラバは、町で起きた暴動と殺人のために投獄されていた者だった。
23:20ピラトはイエスを釈放したいと思い、もう一度呼びかけた。
23:21しかし彼らは叫び続けた。「十字架につけろ。十字架につけろ。」
23:22ピラトは三度目に言った。「いったい、この人がどんな悪事をしたのか。死に当たる罪の根拠は何も見つからなかった。だから、懲らしめたうえで釈放する。」
23:23しかし人々は、十字架につけるよう大声で迫り、その声が押し切った。
23:24ピラトは、彼らの要求をかなえるとの判決を下した。
23:25暴動と殺人のため牢に入れられていた、彼らの求める者を釈放し、イエスを彼らの意のままに引き渡した。
23:26イエスを引いていく途中、人々は畑から来たキレネ人シモンを捕まえ、十字架を負わせて、イエスの後ろを担いで行かせた。
23:27大勢の民と、胸を打って嘆き悲しむ女たちが、イエスについていった。
23:28イエスは女たちに振り向いて言われた。「エルサレムの娘たち、私のために泣くな。むしろ、自分たちと、自分の子どもたちのために泣きなさい。
23:29見よ、『子を産めない女たち、産んだことのない胎、養ったことのない乳房は幸いだ』と言う日々が来る。
23:30そのとき人々は山に『私たちの上に倒れかかれ』と言い、丘に『私たちを覆ってくれ』と言い始める。
23:31生木にこんなことをするなら、枯れ木には何が起こるだろうか。」
23:32ほかにも二人の犯罪人が、処刑されるため、イエスと共に引かれていった。
23:33「頭蓋骨」と呼ばれる場所に来ると、人々はそこでイエスを十字架につけた。犯罪人も、一人は右に、一人は左につけた。
23:34イエスは言っておられた。「父よ、彼らをお赦しください。自分たちが何をしているのか、知らないのです。」人々はくじを引き、イエスの衣服を分けた。
23:35民は立って見ていた。指導者たちも鼻で笑って言った。「ほかの者は救った。これが神のキリスト、選ばれた者なら、自分を救ってみろ。」
23:36兵士たちも近づいて嘲り、酸いぶどう酒を差し出し、
23:37言った。「お前がユダヤ人の王なら、自分を救ってみろ。」
23:38イエスの上には、「この者はユダヤ人の王」との札もあった。
23:39つるされていた犯罪人の一人は、イエスをののしった。「お前はキリストではないか。自分と我々を救ってみろ。」
23:40しかしもう一人は、彼を戒めて答えた。「同じ刑を受けているのに、お前は神を恐れもしないのか。
23:41我々は、したことに見合う報いを受けているのだから、当然だ。しかし、この方は何も道に外れたことをしていない。」
23:42そして言った。「イエスさま、あなたがご自分の王権をもって来られるとき、私を思い出してください。」52
23:43イエスは言われた。「確かにあなたに言う。今日、あなたは私と共に楽園にいる。」53
23:44すでに正午ごろであった。全地が暗くなり、午後三時ごろまで続いた。
23:45太陽の光が失われたのである。そして聖所の幕が、真ん中で裂けた。54
23:46イエスは大声で叫ばれた。「父よ、あなたの御手に、私の霊を委ねます。」こう言って、息を引き取られた。
23:47百人隊長は出来事を見て、神をあがめながら言った。「確かに、この人は正しい人だった。」55
23:48この見物に集まった群衆も皆、起きたことを見ると、胸を打ちながら帰っていった。
23:49イエスの知人たちは皆、遠くに立っていた。ガリラヤから従ってきた女たちも、これらを見ていた。
23:50さて、ヨセフという議員がいた。善良で正しい人だった。
23:51議会の決定と行動には同意していなかった。ユダヤ人の町アリマタヤの出身で、神の国を待ち望んでいた。
23:52この人がピラトのもとへ行き、イエスの体を願い出た。
23:53そして体を下ろして亜麻布で包み、岩に掘られた墓に納めた。まだ誰も葬られたことのない墓だった。
23:54その日は準備の日で、安息日が始まろうとしていた。
23:55ガリラヤからイエスと共に来ていた女たちも後についていき、墓と、体がどう納められたかを見た。
23:56それから戻って、香料と香油を用意した。そして安息日には、戒めに従って休んだ。
第24章
24:1週の初めの日、まだごく早い明け方に、女たちは用意した香料を持って墓へ行った。
24:2石は墓の入り口から転がしてあった。
24:3中に入ったが、体は見つからなかった。
24:4このことで途方に暮れていると、突然、まばゆく輝く衣を着た男二人が、そばに立った。
24:5女たちは恐れ、顔を地に伏せた。二人は言った。「なぜ、生きている方を死人の中で捜すのか。
24:6ここにはおられない。起こされたのだ。まだガリラヤにおられたとき、あなたがたにどう話されたか、思い出しなさい。
24:7人の子は罪深い人々の手に引き渡され、十字架につけられ、三日目に復活しなければならない、と言われたではないか。」
24:8女たちは、その言葉を思い出した。
24:9そして墓から帰り、これらすべてを十一人と、ほかの皆に知らせた。
24:10それはマグダラのマリア、ヨハナ、ヤコブの母マリア、それに一緒にいたほかの女たちである。彼女たちは使徒たちに、このことを話した。56
24:11しかし使徒たちには、この言葉がたわ言のように思え、女たちを信じなかった。
24:12だがペトロは立って墓へ走った。かがんで見ると、亜麻布だけがあった。そして、起きたことを不思議に思いながら、自分のところへ帰った。57
24:13ちょうど同じ日、その仲間の二人が、エルサレムから六十スタディオン離れた、エマオという村へ向かっていた。
24:14二人は、起きたことをすべて語り合っていた。
24:15話し合い、論じ合っていると、イエスご自身が近づき、一緒に歩き始められた。
24:16しかし二人の目は遮られていて、イエスだとは分からなかった。
24:17イエスは言われた。「歩きながら、何のことを語り合っているのか。」二人は暗い顔で立ち止まった。
24:18クレオパという一人が答えた。「あなたはエルサレムに滞在していて、近ごろそこで起きたことをご存じない、ただ一人の方なのですか。」
24:19イエスは言われた。「どんなことか。」二人は言った。「ナザレのイエスのことです。この方は神と民全体の前で、行いにも言葉にも力ある預言者でした。
24:20ところが私たちの祭司長と指導者たちは、死刑に処するため引き渡し、十字架につけたのです。
24:21私たちは、この方こそイスラエルを解放してくださる方だと望んでいました。しかも、そうしたことが起きてから、もう今日で三日目になります。
24:22そのうえ、仲間の女たちが私たちを驚かせました。早朝、墓へ行ったのですが、
24:23この方の体を見つけられず、帰ってきて、御使いたちの幻を見たとまで言うのです。御使いたちは、この方が生きておられると告げたそうです。
24:24仲間の何人かも墓へ行き、女たちが言ったとおりだと確かめました。しかし、この方は見ていません。」
24:25イエスは言われた。「ああ、悟りのない、預言者たちが語ったすべてを信じるのに、心の鈍い者たち。
24:26キリストはこれらの苦しみを受けて、自分の栄光に入らねばならなかったのではないか。」
24:27そしてモーセから始め、すべての預言者に及び、聖書全体の中でご自分について書かれたことを、二人に解き明かされた。
24:28目的の村に近づくと、イエスはさらに先へ行く様子をされた。
24:29二人は強く引き留めて言った。「一緒にお泊まりください。もう夕方です。日も傾きました。」そこでイエスは、一緒に泊まるために入られた。
24:30食卓に共に着くと、イエスはパンを取り、祝福して裂き、二人に渡しておられた。
24:31すると二人の目が開かれ、イエスだと分かった。その瞬間、イエスの姿は見えなくなった。
24:32二人は言い合った。「道で話しかけ、聖書を開いてくださっていた間、私たちの内で、心が燃えていたではないか。」
24:33その時すぐに立ち上がり、エルサレムへ戻った。すると十一人と、その仲間たちが集まっていて、
24:34「主は本当に起こされ、シモンに現れた」と言っていた。
24:35二人も道での出来事と、パンを裂かれたときにイエスだと分かったことを語った。
24:36こう話していると、イエスご自身が一同の真ん中に立たれた。58
24:37一同は驚き、恐れ、霊を見ているのだと思った。
24:38イエスは言われた。「なぜ動揺しているのか。なぜ心に疑いが湧くのか。
24:39私の手と足を見なさい。私自身だ。触って確かめなさい。霊には肉も骨もないが、私にはある。あなたがたが見ているとおりだ。」
24:40[こう言って、手と足を一同にお見せになった。]59
24:41一同が喜びのあまり、まだ信じられず驚いていると、イエスは言われた。「ここに何か食べる物はあるか。」
24:42彼らは焼いた魚を一切れ渡した。
24:43イエスはそれを取り、目の前で食べられた。
24:44そして言われた。「これが、まだあなたがたと一緒にいたとき話したことだ。モーセの律法、預言者、詩編に私について書かれたことは、すべて実現しなければならない。」
24:45そのとき、聖書を理解できるよう、一同の思いを開かれた。
24:46そして言われた。「このように書いてある。キリストは苦しみを受け、三日目に死人の中から復活する。
24:47そして、その名によって、悔い改めと罪の赦しが、あらゆる民族に告げ知らされる――エルサレムから始めて。60
24:48あなたがたは、これらのことの証人だ。
24:49見よ、私は父の約束のものを、あなたがたの上に送り出す。あなたがたは、高いところからの力を身にまとうまで、町にとどまりなさい。」
24:50イエスは一同をベタニアのあたりまで連れ出し、両手を上げて祝福された。
24:51祝福しておられる間に、イエスは一同から離れた。[そして、天へと上げられた。]61
24:52一同は[イエスを拝み]、大きな喜びをもってエルサレムへ帰った。
24:53そして絶えず神殿にいて、神をほめたたえていた。
訳注
- 1:1–4は原文では一続きの文。日本語では文を分けた。「成就した」はπεπληροφορημένωνの読みで、「十分に確かめられた」と捉える余地もある。3節のἄνωθενは、調査の起点を示す「初めから」とした。καθεξῆςの「順序立てて」は、すべての出来事が厳密な年代順だと保証する表現とはしなかった。 ↩
- 1:35のἅγιονは「聖なる者と呼ばれる」とも、「生まれる聖なる子が神の子と呼ばれる」とも構成できる。本訳は前者の流れを採る。「覆う」はἐπισκιάζω。原文にない身体的な仕組みの説明を加えていない。 ↩
- 「救いの角」はκέρας σωτηρίας。動物の角の力を用いる比喩として保ち、「救い主」という人物名詞だけに置き換えなかった。1:54、69のπαῖςは神に仕える「僕」とした。1:38、48のδούληとは原語が異なる。 ↩
- ἀνατολήは「昇ること」「日の出」、また「芽生え」を表しうる。ここでは79節の「照らす」とのつながりから、光の到来として訳した。78節の「訪れる」は底本の未来形ἐπισκέψεταιによる。 ↩
- 2:2のπρώτηを「最初の」と取り、キリニウスの統治を示す属格絶対構文を時間の説明として訳した。「キリニウス以前」と読み替えていない。本文の年代と外部史料との整合は、今回検証していない。 ↩
- κατάλυμαは滞在・宿泊の場所を指す。2:7は建物の具体的な構造や宿屋の主人を記していないため、「泊まる場所」とした。22:11では同じ語を、食事のための「客間」とした。10:34の「宿屋」は別語πανδοχεῖον。 ↩
- 底本はεὐδοκίαςという属格。「平和」を無条件に「すべての人へ」と広げず、神の好意を受ける人々という読みで訳した。「御心にかなう」は、人が行いによって恵みを獲得するとの説明を加える意図ではない。 ↩
- 2:22はαὐτῶν、「彼らの」と複数になっている。そのまま残し、「マリアだけの清め」と本文を変更しなかった。誰をどの範囲で含めるかは、この代名詞だけでは確定しない。 ↩
- 2:37は、アンナが八十四歳であったとも、やもめとして八十四年過ごしたとも読める。前者を本文とした。36節の七年は、結婚して夫と暮らした期間。 ↩
- ἐν τοῖς τοῦ πατρός μουは、直訳すると「私の父に属する事柄/場所のうちに」。「父の家にいる」とする理解を、神殿の場面に合わせて「父のところにいる」と訳した。「父の事柄に携わる」という理解も可能。 ↩
- 3:23–38は、ヨセフから遡る父系の連鎖として訳した。「人々には……と思われていた」はイエスとヨセフの関係にかかる。マリアの名や「義父」を補わず、他の系譜へ合わせて名前を改めていない。3:29のἸησοῦも「イエス」とし、3:32のἸωβήλ、Σαλά、3:33のἈδμίν、Ἀρνίなど、底本にある名前の区別と順序を保った。ただし、人名すべてをギリシア語の音どおりに音写する方針ではなく、ヘリ、ナタン、ヘスロン、テラ、ノアなどには慣用名を使った。気息記号も一律に音写していない。 ↩
- 4:44の底本はἸουδαίας、「ユダヤ」。直前の舞台に合わせて「ガリラヤ」に変更していない。4:16のΝαζαράは「ナザラ」と音写し、1:26などの「ナザレ」と同じ町を指す語形として扱った。 ↩
- 「先生」はἐπιστάτα。5:5、8:24・45、9:33・49、17:13の呼びかけで用いられ、指導する者への呼称である。「教える者」を表すδιδάσκαλοςの呼格も本訳では「先生」としたが、原語は同じではない。 ↩
- 5:10のζωγρῶνは、生きたまま捕らえることを表す語。「人を生かして捕らえる」はその語感を残した訳であり、「人を釣る」という漁の比喩だけに置き換えていない。ここではシモンの今後の働きへの召しとして読む。 ↩
- 6:15の「アルファイの子」、16節の「ヤコブの子」は、人名の属格から親子関係を読んだもの。原文に「子」という名詞はない。とくに「ヤコブのユダ」については、兄弟関係と取る読みも文法上は可能だが、本訳は父子関係とした。 ↩
- 6:35のμηδὲν ἀπελπίζοντεςは難所。「返ってくることを当てにしない」という理解を本文に採ったが、動詞には「望みを失う」という意味もあり、「何も絶望せずに」とする読みも成り立つ。直前の貸借と返礼の文脈を採用理由とした。6:32–34のχάριςは、愛や善行がどんな評価に値するかを問う表現として訳した。 ↩
- 7:47のὅτιは字義的には「……だから/……ということから」。41–43節では、債務を免除された者が愛するという順序なので、彼女の大きな愛が、罪の赦されていることを示すという読みを採った。「多く愛したから赦された」という因果関係で読む余地もあり、本文での「示している」は本訳の解釈である。彼女の罪の種類や、他の福音書の登場人物との同一性は補っていない。 ↩
- 9:31のἔξοδοςは「出発」「退出」。イエスの死を中心とする去り行きを指すと読むが、復活・昇天とのつながりを閉ざさないため、「死」だけに限定しなかった。「出エジプト」を連想させる語でもあるが、それを訳文中の解説にはしていない。 ↩
- 「彼らが雲の中に入る」の「彼ら」が誰を含むかは、この代名詞だけでは確定しない。本訳では、雲に入る者をイエス・モーセ・エリヤ、恐れた者を弟子たちと読んだ。弟子たちも雲に入る者に含める読みもある。恐れた者の主語も、原文には名詞で明示されていない。 ↩
- 9:51–53ではπρόσωπον(顔)が三度繰り返される。51節の直訳は「エルサレムへ行こうと顔を固く定めた」、52節は「自分の顔の前に」、53節は「その顔がエルサレムへ向かっていた」。本文では日本語の慣用に合わせて「決意を固める」「先に」「目指す」としたが、旅の方向を示す同じ語の反復がある。ἀνάλημψιςは「上げられること」で、αὐτοῦを「ご自分が」と訳した。「天」という名詞はこの節にはない。 ↩
- 10:42は底本のὀλίγων δέ ἐστιν χρεία ἢ ἑνόςを訳した。「必要なのは一つだけ」と短くしていない。「わずかなもの」が食事の品数を含意するか、必要な事柄一般なのかは確定せず、μερίςも「分け前」として比喩を保った。 ↩
- ἐπιούσιοςの正確な意味は確定しにくく、「日々の」「来る日のための」「必要な」などの読みがある。本訳は「必要な」を採り、別にあるτὸ καθ’ ἡμέρανを「日ごとに」とした。11:2–4はルカの底本にある短い祈りを訳し、マタイや礼拝の祈祷文から句を補っていない。 ↩
- ἀναίδειαは遠慮・羞恥のなさ。11:7で中から答える友人と、11:8で遠慮せず求める者は別人である。ἀναίδειαに伴うαὐτοῦを、求める側を指すと読んだ。家の中の友人が自分の体面を守ることに重点を置く解釈も考えられるが、本訳では採らない。「何度も頼んだ」といった、書かれていない行動を物語に追加しなかった。 ↩
- οἶκος ἐπὶ οἶκον πίπτειは、直訳すれば「家が家の上に倒れる」。ἐπίを敵対の関係と読んで「家も、家に逆らえば倒れる」としたが、崩れた家が別の家に重なる光景として読む余地もある。原文に条件節はなく、「逆らえば」は前半の分裂を受けた本訳の解釈である。 ↩
- 「あなたがたの子ら」はοἱ υἱοὶ ὑμῶν。実子に限らず、弟子や同じ集団に属する人々を表す呼び方と読める。ここでは、問いかける側と関係のある悪霊追放者を指すと理解した。 ↩
- τὰ ἐνόνταは「中にあるもの」。直前の杯・皿の内容物、あるいは手元の持ち物と理解して、施しの対象とした。「心の内側を施す」のように一つの比喩的説明へ固定していない。 ↩
- τοῦ θεοῦは「神の」という属格。本訳は「愛」に結びつけ、神を愛するという目的語的な関係に読んだ。「神の愛」として神を動作主と取る余地もある。属格を「公正」にも関係づける読みも考えられるが、本文はその読みを採っていない。 ↩
- 「聖所」はοἶκος(家)を、祭壇と並ぶ神殿の建物として読んだ訳。原文に「神の」という修飾語はない。「命を落とした」はἀπολομένουで、動詞自体は「死ぬ/滅びる」を表す。50節から続く流血の文脈は保ったが、特定の殺害事情や旧約の人物との同定は本文に補っていない。 ↩
- ἡλικίαは年齢・生涯にも、身長にも用いられる。ここでは「生涯」を採用した。πῆχυςは肘から指先までを基準にする長さの単位「キュビト」であり、命の長さを空間的に言い表す比喩を保った。「寿命を一時間」といった、原文にない時間単位へ換算しなかった。 ↩
- 12:49のτί θέλω εἰ ἤδη ἀνήφθηは構文が難しい。「すでに火がついていたなら、と切望する」という感嘆として訳した。「すでに燃えているなら、ほかに何を望もうか」と取る余地もある。50節の「洗礼」は、イエスがこれから受ける苦しみを指す比喩として読む。 ↩
- 24節のὑμῖν(あなたがたに)は複数で、直前に一人の奴隷へ語る形から変化する。本訳は「私の夕食」を手がかりに主人の発話を続けたが、イエスがたとえの外の聞き手へ直接語る言葉とも読める。γάρによる直前への説明関係を、文末の「……のだ」で表した。 ↩
- μισεῖは「憎む」。家族や自分の命よりも弟子としての従属を優先する要求と理解するが、原語を「少し愛する」へ穏当化せず、本文の強さを保った。現代の家族への暴力を訳者が支持する表現ではない。 ↩
- 16:8のὁ κύριοςは、たとえの中の主人とした。褒めた点は「抜け目なく行動した」ことで、不正そのものを善とする文にはしていない。16:9、11のμαμωνᾶςは「富」。τῆς ἀδικίαςという修飾は「不正にまつわる」とし、不正に稼いだ金だけを指すと断定しなかった。9節のἐκλίπῃは単数で、その富が尽きるという読みを採った。迎え入れる者の身元は補っていない。 ↩
- βιάζεταιは、力を用いて進むという中動態の理解と、強く迫られるという受動態の理解が可能。本訳はπᾶςを動作主として、神の国へ力を尽くして入ろうとする読みを採用した。この動詞だけから、信仰の強制を正当化する説明を加えていない。 ↩
- ἀχρεῖοςは「役に立たない」「無益な」。仕事を果たしても主人に余分の請求権を持たないという文脈を、後続の文と共に保った。「役立たず」とだけ切り離して、人間の価値一般の判断へ拡張する趣旨ではない。たとえには古代の奴隷制度が前提とされるが、訳文はその支持を意味しない。 ↩
- ἐντὸς ὑμῶνは「あなたがたの内に」とも読める。本訳は、ファリサイ派の人々に向けた発言であることから、「あなたがたの間に」を採った。個人の内面だけに神の国を限定していない。 ↩
- ἀετοίは鷲類を指すが、死体に集まる場面から「禿鷲」とした。「連れていかれる」が救いか裁きか、この一節だけで一方に決める注釈は付けていない。17:36は固定底本にないため、35節の次は37節となる。 ↩
- ὑπωπιάζωは、目の下を打つことを表す強い語。ここでは絶え間ない訴えで裁判官を消耗させる比喩と読み、「打ちのめす」とした。やもめが実際に殴る計画を持っていた、とは説明していない。 ↩
- 18:7のκαὶ μακροθυμεῖ ἐπ’ αὐτοῖςは難所。神が長く待たせるのかという問いとして訳し、8節の速やかな裁きへつないだ。神が人々に忍耐を示す、あるいは人々のために待つとの理解もあり、神が待つ理由や対象を補って断定していない。 ↩
- πρὸς ἑαυτόνを祈る動作に結びつけて「自分に向かって」とした。「自分の内で」と読むことも、立つ動作に結びつけて「一人離れて立ち」と読むことも可能である。本文は祈りの向き・あり方を示す読みを採っている。 ↩
- 19:8のδίδωμι、ἀποδίδωμιは現在形。今ここでの申し出として訳したが、「普段から与えている/返している」と、自分の行動を述べている読みも可能。9節の「今日」の救いとの流れから、本文では申し出として読む。 ↩
- 本訳は26節をたとえの中の主人の発話として括った。λέγω ὑμῖν(本文「お前たちに言う」)を、イエスが聞き手に直接語る挿入的な発言と取る読みもある。引用符は訳者による話者の区分であり、原語だけで一義的に確定するものではない。 ↩
- 22:19後半から20節末までの[ ]は、固定したSBLGNTの角括弧を移したもの。訳者の補入ではない。括弧内もすべて訳した。本文伝承上の判断を示す底本の区別を保持するための記号であり、今回、写本の全証言を再調査したという意味ではない。角括弧の部分を省いて読む場合は、「これは私の体である。」で発話を閉じることになる。22:20の「あなたがたのために流される」に当たるτὸ ἐκχυννόμενονは、中性単数(主格・対格同形)で、この文では主格の「この杯」に一致し、与格の「血」とは格が異なる。本訳は流されるものを意味上、血に結びつけて訳したが、杯をその中身を含むものとして受ける読みも成り立つ。 ↩
- διατίθεμαι(授ける/取り決める)は、22:20のδιαθήκη(契約)と語根を共有する。本文はβασιλείαν(王国)を父とイエスの両方の動詞の目的語として読んだ。父が授けたものを「王国」、イエスの約束の内容を30節の食卓への参与と読む余地もある。30節のκαθήσεσθε(あなたがたは座るだろう)は未来直説法で、本文のようにἵναの目的・帰結につなげる読みと、独立した約束として読む形がある。 ↩
- 22:31のὑμᾶςは複数で、弟子たち全体。32節のσοῦ、σύは単数で、シモンへの呼びかけ。その区別を「あなたがた」「あなた」に残した。サタンの要求を述べるἐξῃτήσατοについて、誰に要求したか、要求がどのように許可されたかを補っていない。 ↩
- 「剣のない者」の原文はὁ μὴ ἔχων(持っていない者)で、目的語は省略されている。直前のὁ ἔχων βαλλάντιον(財布のある者)との対句からは、財布や袋を持たない者という読みが成り立つ。本訳は後続の「剣を買いなさい」という具体的な指示を重視し、その「剣」を先取りすると読んだ。「剣」はこの分詞句に明示された目的語ではなく、本訳の補いである。 ↩
- 22:38のἱκανόν ἐστινは「十分だ」。二本という数量を肯定しているのか、会話を打ち切っているのかは、この表現だけでは決まらない。36–38節の剣について、武装への一般的な命令や単なる比喩という説明を本文に付け足していない。 ↩
- 22:43–44は固定したSBLGNT本文にあり、訳した。44節はὡσεὶ、「……のように」と比喩を示す。汗が文字どおり血になったとする医学的な診断や説明を加えていない。 ↩
- ἐᾶτε ἕως τούτουは、「ここまでにせよ」「このことまでは許せ」などに取れる。ここでは剣による行動を止める言葉として訳した。誰に向けた命令かは、原文で明示されていない。 ↩
- 「力ある神の右」の原語は「神の力の右」(ἐκ δεξιῶν τῆς δυνάμεως τοῦ θεοῦ)。原語の名詞「力」を神の威力を表す言い方として読み、本文では「力ある神」と形容表現に組み替えた。ἔσται … καθήμενοςは、未来の時に座っている状態を表す。「今から後……座っている」と訳した。 ↩
- 「私がそうだとは、あなたがたが言っている」はὑμεῖς λέγετε ὅτι ἐγώ εἰμι。肯定を含む応答と読むことはできるが、単に「そのとおりだ」と置き換えず、相手の言葉を受け返す形を残した。23:3のσὺ λέγειςも同様。 ↩
- ἐν τῇ βασιλείᾳ σουは「あなたの王国/王権において」。本訳は王権を伴って来ることと読み、「ご自分の王権をもって来られる」とした。「あなたの王国において来られる」と領域を意識する読みもあるが、固定本文のἐνを「御国へ」とする移動の目的地だけに置き換えていない。 ↩
- 23:43の「今日」は、「私と共に楽園にいる」に結びつけた。古代本文の句読法だけで問題が解決するとは扱っていないが、本訳は「今日あなたに言う」という区切りを採らない。23:17は固定底本にないため補っていない。 ↩
- 23:44の第六時、第九時を、昼間の時刻の数え方に従い、およそ正午と午後三時に置き換えた。45節のτοῦ ἡλίου ἐκλιπόντοςは太陽の光が失われることとして訳し、天文学的な「日食」だとは断定しなかった。 ↩
- 23:47のδίκαιοςは「正しい」。直前の無罪の論点から「罪のない人」という意味を含みうるが、「正しい人」を保った。他の福音書の百人隊長の告白へ置き換えていない。 ↩
- 24:10の「ヤコブの母」は、Μαρία ἡ Ἰακώβουの関係を母子と解した補い。原文に「母」という名詞そのものはない。24:13の六十スタディオンは、およそ十一キロに相当する距離だが、村の現在地の同定まで確認したという意味ではない。 ↩
- πρὸς αὑτόνをἀπῆλθενに結びつけ、「自分のところへ帰った」とした。θαυμάζωνに結びつけて「自分の内で不思議に思いながら去った」と読む余地もあり、原文は帰った建物や場所を具体的には記していない。 ↩
- 固定したSBLGNTの24:36には、他の本文形態で見られる「あなたがたに平和があるように」という挨拶はない。本訳では追加していない。24:3も底本に合わせて「体」とし、「主イエスの」という語句を加えなかった。 ↩
- 24:40の[ ]は固定底本の角括弧を保持したもの。括弧内の一節も訳している。 ↩
- 24:47の底本はμετάνοιαν καὶ ἄφεσιν、「悔い改めと赦し」。二つを結ぶκαίを保ち、「赦しに至る悔い改め」という別の形へ変更していない。ἀρξάμενοιは男性主格複数のアオリスト分詞。底本のダッシュはこの分詞の前にあり、「エルサレムから」の後には中点がある。本文も「――エルサレムから始めて。」とし、そこでいったん区切った。意味上は48節の「あなたがた」につながる証人たちの行動と読んだ。命令形そのものではないが、独立した分詞に指示の力を認める読みもある。本訳は直接の命令文への言い換えを避けた。 ↩
- 24:51と52の[ ]も固定底本の角括弧を保持したもの。範囲はそれぞれ「天へと上げられた」「イエスを拝み」に当たる。角括弧のある全四範囲を訳し、底本の区別を消していない。 ↩
底本・帰属表示
本文と訳注はAI(Codex)が作成した翻訳原稿です。Claude CodeによるAI校閲を受けて原文と再照合し、本文・訳注を改訂しました。人間のギリシア語専門家による校閲は未実施です。
Michael W. Holmes編 The Greek New Testament: SBL Edition(2010)。SBLGNT公式配布v1.2、固定コミット c4d241a9c1c479a55b989ba35a4976c1d0b8052c の data/sblgnt/text/Luke.txt を使用。
Copyright 2010 Society of Biblical Literature and Logos Bible Software。公式配布元、使用本文、CC BY 4.0。本成果物は原文の日本語翻訳、章節整形、独自訳注の追加を含みます。原権利者による推奨・公認を示すものではありません。
既存の近現代日本語訳を今回の生成入力として使用・閲覧せず、章ごとにギリシア語を先に読んで訳しました。学習済み知識からの影響を完全に排除したとは表示しません。既訳との体系的な表現類似監査および専門家校閲は未実施です。